2月10日、復興庁がようやく発足した。東日本大震災直後に構想が示されていたにもかかわらず、11か月近く経ってからのことである。ことほど左様に行政の対応は遅い。大震災後の被害想定や防災対策とりわけ今問題となっている大都市圏が大地震に見舞われた時の想定、対策の見直しについても、対応の遅さがありはしないか。防災・危機管理ジャーナリストの渡辺実氏がここでは、東京・有明の「東京臨海広域防災公園」を題材とし、現状を分析する。
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これまで東京湾が津波に襲われることは想定されてきたのだろうか。実は有明の施設は、津波の発生の可能性を考慮せずに作られた施設なのである。
これまで東京湾が津波に襲われる可能性についてはあまり議論されてこなかった。国の中央防災会議で想定されている首都直下地震は震源が荒川河口付近という設定であり、確かにその場合は東京湾に津波が発生する可能性は極めて小さい。
しかし、あまり大きく報道されなかったが、宮城県沖を震源とする東日本大震災では、東京湾にも津波が押し寄せた。内房の木更津市では2m強の津波が20回以上観測され、最高は2.83mを記録した。船橋市でも最高2.40mだった(千葉県の調査)。三陸沖から茨城沖で発生した巨大津波が、房総半島を回り込んで押し入ったと推測できる。また、荒川、隅田川、多摩川でも津波が遡上したことが観測されている。
これらが実証するように、3.11以降、歪みが蓄積している房総沖を震源とする大地震が起これば、東京湾にも津波が浸入する可能性がある。また、伊豆諸島近海を震源域とする大地震が発生した場合も、東京湾が津波に襲われる可能性がある。
ところが、これまで房総沖地震の発生そのものが、中央防災会議で本気で議論されてこなかったのである。なぜだろうか。
万が一、東京湾に大きな津波が押し寄せると、津波対策を行なっていない湾岸の古い石油コンビナートや火力発電所で火災が発生し、湾内の船舶が転覆する。津波は羽田空港に浸水し、荒川、隅田川、多摩川などを遡上して広大なゼロメートル地帯の家屋を呑み込み、地下鉄、地下街に浸水被害をもたらす。
こうした甚大な被害が予測される。実は、津波の発生を全く想像できなかったというよりも、首都機能に甚大な被害を及ぼすなど、予測される被害があまりにも大きいゆえに、大きな津波が発生するという想定自体が事実上タブー視されてきたのだ。
原発安全神話同様の「東京湾津波安全神話」が支配してきた、と私は見ている。
有明の施設はその象徴なのである。
内閣府防災担当に津波被害の危惧をぶつけると、こんな答えが返ってきた。
「東日本大震災以前、東京湾で2mを超える津波が観測されたことはありません。ですから、施設を建設した当時は、湾からの距離、海抜、防潮堤の存在などを考え、津波に対して安全だという認識でした。念のために通信機器や自家発電設備は建物の2階に設置しています。東日本大震災の際に2m以上の津波が発生したと報道されましたが、内閣府としてはあれを正式に津波として認識しているわけではありません。今後、正式にあれが津波ということになれば、新たな対応をすることになると思いますが」
なんともお役所的な対応である。
※SAPIO2012年3月14日号