現在、多くのエロ漫画家が日本では活躍しているが、エロ漫画というジャンルが確立されたのは1970年代から始まった官能劇画ブームがきっかけ。わずか数年のブームでありながら、官能劇画からは多くの才能が輩出されている。
いしかわじゅんはその代表格。官能劇画誌で描いたギャグ漫画で注目を浴び大手一般誌へ進出。現在は漫画評論家としても人気である。
いしかわのライバルとして火花を散らした吾妻ひでおも「劇画アリス」で作品を発表していた漫画家だ。吾妻も同じく後に一般誌に活動を移し、近年では自分が失踪し、ホームレス生活をしていた頃の体験を描いた『失踪日記』で文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞を受賞した。
ギャグの世界では、『ぼのぼの』などの四コマ漫画で大ヒット作家になったいがらしみきおが「エロジェニカ」からデビュー。やはり現在朝日新聞で四コマ漫画『ののちゃん』を連載しているいしいひさいちも、かつては劇画誌などに作品を発表していた。
メジャー誌へ移っていった漫画家としては、能條純一もそのひとり。濃い劇画タッチは変わらないが、麻雀漫画『哭きの竜』や将棋漫画『月下の棋士』など、一般誌で次々と大ヒットを飛ばす作家になっている。
また、漫画以外の分野で活躍する人々も多い。官能劇画誌で異彩を放ち、現在でもその作品のファンが多い石井隆は、後に映画監督になった。
後の直木賞作家もデビューが官能劇画誌だった。大学の先輩であるいしかわじゅんの紹介で「漫画エロジェニカ」からデビューした女子大生作家・山田双葉は、何を隠そう現在の小説家・山田詠美である。
変わり種としては現在、俳優やナレーターとして活躍する田口トモロヲ。石井隆の漫画にあこがれてこの世界に入り「田口智朗」名義で作品を発表している。
※週刊ポスト2012年3月16日号