復興庁によると、被災3県では、いまなお仮設住宅などの仮住まいで30万人以上が暮らす。被災者のなかには、自営業を営み、店舗ごと流されてしまった人も少なくない。
店舗再建の見通しも立たないなか、仮設住宅を店舗として利用し、再起にかける人たちがいる。そうした仮設店舗が数軒並んだ「仮設商店街」も、各地で誕生し始めている。
宮城県七ヶ浜町の仮設住宅に住む岩本喜治さん(53才)と喜美子さん(55才)は、昨年12月27日から、同町の仮設商店街でラーメン店を始めた。震災後、喜治さんはそれまでの会社員人生をきっぱりやめ、50代にして一念発起。「60才で定年を迎えるより、震災というタイミングで新しいことにチャレンジしてみたかった」と、仮設住宅の隣接地に、『夢麺』という名の店を開いたのだ。
前職はトラック運転手。ラーメンづくりの修業を積んだ経験はなく、それどころか、飲食業に携わるのも初めて。喜美子さんは、こう呆れる。
「相談は受けませんでした。周りから“ラーメン屋やるんだって?”と聞かされて、初めて知ったんです。私はこれまで何やっても、反対したことはなかった。そんなのやめろって、私がいっても聞く人ではないからね(苦笑)」
それでも、喜治さんは研究を重ね、手作り麺と、しょうゆ風味の特製スープを開発。昼時には、店の外に行列まででき、「昔懐かしい味」となかなかの評判だ。皆から「がんちゃん」と慕われる喜治さんの明るいキャラクターもあって、何かとひきこもりがちな仮設住宅の住民たちの、ちょっとした交流の場にもなっている。
※女性セブン2012年3月22日号