かつて「シバ漬け食べたい!」のCM(フジッコ「漬物百選」)などで話題となった元タレントの山口美江さん。9日に心不全のため亡くなったことが分かったが生前、同CMにまつわるエピソードを脚本家のジェームス三木氏(76)に語っていた。以下は26歳だった山口さんとジェームス氏の対談だ。(週刊ポスト1988年7月1日号より)
ジェームス:私は美人が苦労したという話は好きでしてね。何か苦労はありますか。
山口:シバ漬けのCMは大変なものだったんですよ。とにかく御飯を五合も食べた。
ジェームス:全部食べたの?
山口:ええ、全部。で、撮影終わったら“山口さん、お食事とってあります、カツ丼ですよ”っていわれたときは、もう……(笑い)
ジェームス:脚本家としていえば、あの“シバ漬け食べたい”という台詞がいいのは、性格と感情がちゃんと出ているからですよ。山口さんの人間の奥が見えるって感じがするのね。だからとてもいいんです。これは役者として一番大切なことなんです。台詞は性格と感情を持ってなきゃいけないってこと。
山口:最近ドラマに挑戦しましたけど、苦労しました。自然な動きをやるっていうの、難しいですね。
ジェームス:ドラマで一番難しいのはまっすぐに歩くことなんですよ。
山口:わかります、よくわかる。
ジェームス:アドバイスしておくとすれば、お客さんが何故ドラマを見るかっていうと、人の取り乱してるところを見たいからなんですよ。だから、女優さんというのは取り乱さなきゃだめなのね。この人は今こうしてるけど、内面はどう取り乱しているかとか、この後どう取り乱すかってところを見たいんですよ。
山口:それは気持ちがハイになっている状態のことですか?
ジェームス:そうですね。ドラマって本来そうなんですよ。普通の状態を見ても退屈なんだから。だから、女優は取り乱す練習をすればいい。取り乱した方が勝ちですよ。
山口:そうですか。女優ってむずかしい。
ジェームス:でも、女優とキャスターを比べると全く逆ですね。女優は取り乱さなきゃいけない。キャスターは絶対取り乱しちゃいけない。両方やれたら素晴らしいね。あの、山口さんの持ってる劣等感って何ですか。これ、この対談シリーズで毎回聞こうと思ってるんですが、美女にどんな劣等感があるのかってのを探ってみたい。
山口:最初に浮かぶのは、日本人でありながらアメリカンスクールで育ったバタ臭さ、かな。日本人でもなく欧米人でもないって感覚的な部分でしょうか。
ジェームス:何か国語も喋れるということは、全部完璧じゃなくなるってことも聞きますしね。
山口:インターナショナルスクールだとそういう人は多いんですよ。英語も日本語も中途半端になってしまって。それで、たとえば日本史も英語で習ったんですね。外国人の先生に。ですから、日本文化というものに対して異常なくらいの憧れがあるんですよ。