アメリカでは最大手「ザッポス」が年商1000億円に急成長の「靴のネット通販」。その新サービスが日本でも始まり大成功しているという。1年間で会員数10万人を超えた『ロコンド.jp』の秘密に、作家の山下柚実氏が迫った。
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ネット上でみつけた茶色のショートブーツ。デザインが気に入った。けれど、私の足はクセモノ。幅が広くて外反母趾気味で、ぴたっと「適う」靴がなかなか見つからない。お店で選ぶのさえ難しいのに、ネットで靴を買うなんて無謀? と不安を抱えつつ電話で相談してみた。
「今、画面で見ている靴の幅は何cmありますか?」「ちょっとお待ちください。実物をお測りしてみます」
受話器を置いてしばらくすると、「コンシェルジュ」から返答がきた。「実測で8.5cmでした」
「ついでに靴の踵はどんな素材でしょう?」「ラバーではありませんので、少し硬めかと思いますが」
1足をめぐっての細かいやりとり。その翌日、自宅に実物が届いた。絨毯の上でおそるおそる足を入れると……。
あっ、サイズはぴったり。「欲しい」という気分が、ぐうんと高まる。でも、ここは冷静に、履き心地を点検しなければ。うーん、踵の硬さがちょっと気になるな。取材で長距離を歩くには地面の衝撃が響くかも……。
さんざん迷ったあげく、今回は断念して別の靴を試すことに決めた。送料無料で返品できて何足でも試し履きが可能なのだから。
「靴のネット通販」。当初は私もナンセンスと思っていたが、アメリカの最大手「ザッポス」は年商1000億円に急成長だとか。日本でも始まった新ビジネスに興味津々、アクセスしてみたのだ。
靴を自宅に取り寄せてあれこれ履き比べるまったく新しい買い物スタイル。2011年2月にスタートした靴のネット通販『ロコンド.jp』は、1年間で会員数10万人を超え、月に100万人が訪れ、月間の売り上げが1億円超というからすごい。
「毎月10%ずつ売り上げが伸びています」と、ロコンドを運営する株式会社ジェイドのPR兼オンラインスタイルコンシェルジュ、川口亜沙美さん(28)は言う。
「ハイヒールからスニーカー、ビジネスシューズまで様々なブランドの靴が7万~8万足揃っています。中には5~10足ほど取り寄せて試し履きされる方もいらっしゃいますよ」
たしかに選択できる商品数は、リアルの店舗より圧倒的に多い。しかも、忙しい時間の合間をぬって注文でき、家にある洋服とコーディネートを試すことも可能。話を聞くほどに、「ネットならでは」の利点がいくつも見つかる。
「ご利用層で最も多いのは30代女性のお客さま。お子さんが寝ている間にお母さんが靴の試し履きを楽しまれたり、中には旦那さんの靴も一緒に注文される方もいます」
とにかく、靴の一番の問題は「サイズ」にある。ロコンドは「99日間返品無料」という「お試し」サービスで、その高いハードルを越えようとしている。でも気になるのは返品率だ。
お客さんから品物をばんばん返されてしまっては商売にならないのでは?
「返品率は5足に1足、ほぼ2割程度に留まっています。おひとりの平均購入数は1.23足です」
私のように購入前にコンシェルジュに相談する人も多いらしい。問い合わせの電話は1日100件ほど入るという。相談内容はサイズなど商品に関する質問、流行や服とのコーディネートなどの相談、そして注文や返品の手順と、主に3種類だ。
※SAPIO2012年3月14日号