中国では今年秋の中国共産党大会を前に、太子党(共産党幹部子弟)閥と胡錦濤国家主席の権力基盤である中国共産主義青年団(共青団)閥の権力闘争が激化しており、中国人民解放軍指導部にも飛び火している。
2月には兵站部門を統括する総後勤部幹部が汚職で更迭されたほか、軍の次世代を担うとみられていた副総参謀部長も3月に入って、汚職容疑で解任されたと香港メディアが伝えた。この2人はいずれも胡国家主席に近い軍最高幹部で、次期最高指導者と目される習近平副主席ら太子党閥の格好の餌食になったとの見方が強まっている。
日本の新年に当たる春節(旧正月=1月23日)の長期休暇が明けるとともに、権力闘争が表面化し、重慶市トップの薄熙来党委書記の腹心で、同市の公安局長として辣腕を振るった王立軍副市長が突如として、成都の米国総領事館に駆け込んだものの、亡命を拒否されて、館外に出たところを中国当局によって身柄を拘束されて、そのまま消息不明になっている。
これは、太子党閥の薄氏が秋の党大会で政治局常務委員会入りするのを阻止するために、腹心の王氏を汚職の容疑で逮捕し、薄氏の腐敗事件への関与を明らかにして、政治的に葬り去ろうとの共青団閥の画策ではないかとの見方がある。
この王立軍事件の真相は明らかにされていないが、薄氏が兼務している政治局員と同市書記の2つの役職について辞表を提出したと報じられている。薄氏についての処分があるか否かはまだ不明だが、これだけ世間の耳目を集めたことで、薄氏の政治局常務委員会入りは絶望視されている。
しかし、太子党閥もやられっぱなしではない。
中国国防部は2月中旬、人民解放軍総後勤部の谷俊山副部長=中将=(55)が解任されたことを発表した。谷中将は次世代の軍指導者として注目されていた最高幹部の一人で、1月18日に軍幹部の新年会に出席したのを最後に公式メディアから名前が消えていた。
谷中将は不動産開発業者の実弟と共謀し、軍の土地収用などで1億元(約12億円)相当の不正な収入を得ていたと伝えられるが、今回の解任を主導したのが文化大革命の際に失脚した故劉少奇元国家主席の子息、劉源大将とみられる。劉大将は総後勤部トップの同部政治委員で、習副主席の盟友として幼いころから親交が深い太子党閥であり、胡主席に近い谷中将を陥れたとの指摘もある。
さらに、王立軍事件が起きてから日も浅い3月初め、今度は章沁生副総参謀長(64)が汚職で解任されたとの情報が飛び込んできた。章氏も胡主席に近い軍最高幹部。中国屈指の軍事理論家で、総参謀部作戦部長や国防大学教育長などを主に理論畑を歩み、軍の階級も大将より一段上の上将で、次期参謀総長と目されていた。
「軍出身ではない胡主席が共産党中央軍事委員会主席として育ててきた子飼いの軍最高幹部が2人ともほぼ同時期に失脚したことは偶然とは考えられず、習副主席や劉大将の意向が強く働いているのは間違いない」と北京の軍事関係筋は指摘する。
同筋によると、胡主席が秋の党大会で、江沢民前主席の例にならって、中央軍事委主席職を手放すことを拒否していることから、習副主席が党中央軍事委主席の座を手に入れべく、胡主席子飼いの軍最高幹部を失脚に追い込んだとの見方が有力だ。
今後とも、秋の党大会が近づくにつれて、両派の権力闘争は激しさを増すことは確実で、党や政府、軍の最高幹部が汚職などの罪に陥れられて、政治生命を絶たれることが予想される。