こんな奇妙な国会審議は、人生のなかでも、もう目にする機会はないだろう。
震災復興も原発事故の処理も遅々として進まず、消費増税に年金改悪、果ては原発再稼働と、国民の生命と財産、国家の行く末を左右する重要課題が目白押しだというのに、与党と野党は一体何を論じているか。
直前に密会で“ネタ合わせ”をした八百長党首討論(2月29日)では、野田佳彦・首相から水を向けた。
「一緒に消費税を引き上げるために努力しようじゃありませんか」
野党党首の谷垣禎一・自民党総裁は、「討論」どころか二つ返事でOKだ。
「その通り。間違いない」
そしてこう続ける。
「小沢(一郎・元民主党代表)さんは倒閣も示唆している。説得できるのか。党内をきちっと掌握されて、方向性を定められるのを固唾を呑んで見守っている」
何の「方向性」だか。要するに「小沢を切れ」が主眼で、それなら国民が大反対している増税の共犯になってもいいというのだ。数日後には自民党内きっての増税派で「小沢嫌い」の急先鋒でもある野田毅・党税調会長が、「小沢元代表は総理と違うことをいっている。まとめきれるのか」と念を押す。
もっとわかりやすいのは茂木敏充・政調会長で、「一番は、増税反対派に出て行ってもらうことです」と、直接的に「小沢を切れ」と要求した。
刑事被告人で党員資格停止中の小沢一郎という1人の政治家の存在が、なぜ増税や社会保障改革以上に政治の重大事になるのか。もっといえば、小沢氏の何を恐れて与野党が総力を挙げて排除しようとしているのか。不真面目な国会もここに極まれりだ。
多くの政治家が「改革」を口にする。小沢氏はその具体的な方法論の一つとして、「総予算を組み替えればカネはある」と繰り返し語ってきた。これが日本社会を根底から変える破壊力を持つ改革であることを与野党の政治家は知っているが、それは霞が関と政治家の既得権を奪うことになるから絶対に認められないのである。逆に増税は、政官の利権を拡大する。
国の一般会計と特別会計を合わせた総予算は約229兆円(2012年度予算案)。地方の一般歳出(約67兆円)を合わせると、日本のGDP(約500兆円)の半分に達する。要するに、日本は官公需に大きく依存している「半共産主義経済」である。それを支配しているのが、予算編成権を持つ財務省だ。
小沢氏のいう総予算の組み替えとは、自民党の長期政権下で官僚が既得権化してきた予算をバッサリ削り、その財源で新しい国家の仕組みを作るマニフェストを実行することだ。既得権派がこぞって増税を推進し、マニフェスト潰しに躍起になり、そして「小沢一郎を切れ」とシュプレヒコールを上げることは、実は一つの糸でつながっている。
※週刊ポスト2012年3月23日号