検察側が読みあげた供述調書には、幼児を部屋に置いたまま、複数の男性との性交渉や夜遊びを繰り返した下村早苗被告の姿が綴られていた。1年半前の夏に発生した大阪二児遺棄殺人事件の初公判(3月5日)は異様な雰囲気に包まれていた――。3歳の桜子ちゃんと1歳9か月の楓くんはなぜ死ななくてはならなかったのか。ノンフィクションライターの杉山春氏が現代の病理、ネグレクト(育児放棄)の闇を照らす。
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子供が餓死に向かう時、母親は、男性と過ごし、お洒落をして大阪や地元の三重県四日市で遊び回る様子をSNSで報告していた。だが公判によれば、相手の男性たちはそれ以上に数が多く、関係をもった時期も重なり、錯綜している。
早苗さんは明るく、感じのいい笑顔で男性たちと出会う。相手の好意に寄り添い、するりと家に上がり住み込んでしまう。次第に子どもを置いて家を留守にする時間が長くなっていく。
事件発覚直前の7月29日、異臭がするとの住民からの苦情で、3分間自宅マンションに戻り、変わり果てた子供たちの姿を見た。早苗さんを探す店の上司に電話で「愛している、死にたい」と言いながら、別の男性の車で夜景を見に出掛けホテルでセックスをした。
早苗さんは、この時、誰に何のために電話をしたのか、何を話したのか、記憶にないと証言する。
公判2日目。元夫、元義母は、それぞれ「無期懲役」「極刑」を望み、早苗さんに強い怒りを表現した。だが出会ったときは、「一緒にいて楽しい」(元夫)「可愛らしい娘さん」(元義母)と思ったと証言する。
結婚していた時の早苗さんの家事、育児については「頑張ってよくやっていた」と言う。母乳と布おむつでの子育てだ。布おむつは強い思い入れがなければ使えない。
そこには痛々しいまでの完璧さを求めて、子育てをする早苗さんがいた。
だが、やがて早苗さんは生活費が足りないと、夫に隠れて消費者金融から借りてしまう。夫に生活費が足りないとなぜ相談しなかったのかと検察に問われ、「いい奥さんでいたかったから」と答えた。
※週刊ポスト2012年3月23日号