政治報道では「極秘会談」が「スクープ」されることがあるが、これは額面通り信じていいのか。東京新聞・中日新聞論説副主幹の長谷川幸洋氏はメディアと政治家の裏にある駆け引きを解説する。
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野田佳彦首相と自民党の谷垣禎一総裁の極秘会談が報じられた。双方とも会談の事実を否定しているが、永田町で「会談はなかった」と信じる人はほとんどいない。民主党の小沢一郎元代表のコメントが象徴している。
「民主党の小沢一郎元代表は3日、テレビ東京の番組で、野田首相と谷垣氏の極秘会談について『2人にとってあまりいいことはない。何でこそこそ会うんだ。会っても大した結果は出ない』と述べ、強い不快感を示した」(読売新聞、3月4日付)
そもそも極秘であるはずの会談が外に漏れてマスコミに報じられるのは、どういうわけか。そこには大体、2通りの思惑がある。一つは会談をマスコミに報じさせることで既成事実化し、政局の流れを作りたい。もう一つは逆に流れを壊したい場合だ。
一般的に言えば、政治家同士の会合が当の本人の知らない間にマスコミに報じられる、というケースはめったにない。なんの話で会うのか。いつどこで。会合の事実をマスコミに書かせるかどうか。書かせるなら、どの社にどこまで書かせるか。カメラ撮影は認めるか。報道のタイミングはどうするか。ときには双方に都合がいい見出しまで、ぜんぶ事前に段取りと手配が決まっている。
石原慎太郎東京都知事を軸にした先の新党騒ぎでもそうだったが、ときどき政治家同士の夜の密会シーンがテレビで報じられるだろう。ああいうのは、実は密会でもなんでもない。報じてもらいたい思惑をもつ政治家が事前に記者に連絡している。だいたい連絡もなく、星の数ほどある店の前でタイミングよく記者がカメラを構えていられるはずもないのだ。
ついでに言えば、記者の側は決定的な局面で事前連絡がもらえないと、自分だけが外される「特オチ」になりかねないので、ひたすら政治家にゴマをするという関係になりがちだ。政治記者にとって政治家の「密会報道」はいつでも輝く勲章である。
そういう事情だから、読者、視聴者の側は「こんな会談があったのか」と驚いてばかりいる必要はない。そこを一歩踏み込んで「こんな会談を表に出して、この政治家はいったい何を考えているのか」とニュースの裏側を考えてみたほうがいい。
※週刊ポスト2012年3月23日号