「君が代起立条例」が2月末に大阪市議会で成立した。すでに昨年6月には大阪府議会で同条例が成立しているため、府立校と大阪市立校の教員は、国家斉唱時の起立が義務となった。不起立で処分を受ける教師を支援し、不起立運動を続ける門真市の市議会議員、戸田久和氏は“不起立教師”の思いを代弁する。
「君が代で起立するかしないか自由があった頃は、穏やかに式典が行なわれていた。そこに起立強制を持ち込んで式典を不穏なものに変えたのは橋下市長です。教員から意志を奪い、職務命令に従えということこそ教育に馴染まない」
本誌はかつて、不起立闘争を行なっていたというある元教員から話を聞くことができた。
教員は、門真市内の公立中学で教鞭を執っていたが、“闘争”に疲れて教壇を降りたことを明かした。
門真市は、教育関係者の間で「東京の国立(くにたち)、大阪の門真」と呼ばれるほど、“君が代アレルギー”が強い地域として知られている。2008年の市立第三中学の卒業式で国歌斉唱の際、教師8人と卒業生160人中たった1人を除いて全員が着席したことがメディアで大きく報じられた。
同市教委は起立しなかった教諭らを文書訓告処分としたが、教諭の1人が処分取り消しを求めて法廷闘争を続けている。今年2月6日、大阪地裁は訴えを棄却、教諭は敗訴したが、原告は控訴する予定だ。
当時の状況をよく知るこの元教諭からは、やや意外な答えが返ってきた。
「私自身、今も主義主張は変わっていません。だからこそずっと不起立を貫いてきましたが、最終的には精神的に疲れ果ててしまいました。そして教師を辞めて少し落ち着いてくると、不起立に批判的な保護者や教師ともっと話し合えばよかったと後悔するようになりました。“反対だからといって先生がなぜこんな勝手なことをするんだ”と思われる保護者の方がいることも、仕事をやめてわかりました。
当時は周囲が見えていなかったのかもしれません。教師が不起立をすることで、メディアに報道されると、子供たちまでもが矢面に立たされることになることを知りました。教え子には起立するように指導すべきだったと思うようになっています」
※週刊ポスト2012年3月23日号