フェイスブックは8億4500万人が集まる世界最強の「ポータル」になっている。大前研一氏は、これはいわばまだ耕されていない“豊饒の大地”であり、そこに何を植え、どのように育てるかは自由であり、利用者が自分で考えなければならないと指摘する。以下は、大前氏の解説だ。
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世界最大手のSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)フェイスブックが新規株式公開を申請した。時価総額が1000億ドル(約8兆円)、調達資金が50億ドル(約4000億円)に達してインターネット関連企業で過去最大のIPOになると見られ、アメリカの株式市場が活気づいている。
フェイスブックの登録者は2011年末時点で、世界で8億4500万人に達し、今年9月頃には10億人を突破するといわれている。これほどフェイスブックが広がったのは集まったデータを利用して自らはビジネスをしていない、比較的中立なプラットフォームとなっているからだ。
このため、本名で登録した人たちが信じられないほど様々なプライベート情報を吐き出している。このフェイスブック上に蓄積されている膨大なパーソナルデータを、これからいかに活用していくか、というところに“ビジネスの種”がある。
私は1990年代に著書や講演などで、eコマース(電子商取引)などのインターネットビジネスで成功するためには、ネット上のお客さんの入り口となる「ポータル」、商品の代金を受け取る「帳合」、商品を届ける「物流」の“三種の神器”が必要だと主張していた。
それを実証したのが1994年に創業したアマゾンの成功だ。同社の創業者ジェフ・ベゾス会長は、本をポータルとしてスタートし、世界各国で利用者にクレジットカードの登録をさせて帳合をひたすら拡大し、本を迅速に届けるための物流センターと物流システムをこれまたひたすら整備していった。
そして商品カテゴリーをDVD、家電、PC、家具、食品、玩具、ファッション、スポーツ用品などに拡大し、世界最強の物流システムを築き上げて三種の神器を完成した。その結果、今やアマゾンはインターネット書店でもIT企業でもなく、世界有数の「小売業」になった。
その点、フェイスブックは「帳合」も「物流」も持っていない。だが、8億4500万人が集まる場所、すなわち世界最強の「ポータル」になっている。これはいわば、まだ耕されていない“豊饒の大地”である。そこに何を植え、どのように育てるかは自由であり、利用者が自分で考えなければならない。要は「使ってナンボ」の世界なのだ。
※週刊ポスト2012年3月23日号