ひたすらバットと白球に向き合うプロ野球キャンプ――己を高め、ライバルを蹴落とす真剣勝負の場だからこそ、練習の合間に洩れる選手の一言一言は切実である。“流しのブルペンキャッチャー”として知られるスポーツジャーナリストの安倍昌彦氏は、そんなつぶやきを聞き逃さなかった。以下、安倍氏のレポートだ。
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2月23日。ヤクルトとの練習試合に投げた斎藤佑樹はまさしく「斎藤佑樹」だった。ベストメンバーで臨んだヤクルトに、終始自分のペースで投げ進めていった斎藤。4番・畠山を1つ前の速球と同じ軌道からすべらせたスライダーで内野フライに。
昨季ホームラン王のバレンティンは、目から一番遠くにカーブを落とし、一転、足元にツーシームを沈めて三振にきってとる。ヤクルト打線は、誰も自分のタイミングで、自分のスイングをさせてもらえない。
突然、快音が響いて、打球が左中間へ伸びた。2年目の山田哲人への2球目のスライダーが高く入った。このへんが「神の子」。乗ってきたところでそそっかしさが顔を出す「幼さ」。「神」への道の伸びしろだ。
徹底的に、両サイド。しつこく、しつこく、低め、低め。4イニング、75球投げて35球が「ボール」だったのは、そんなテーマの副産物だ。大切なものが見えてきた者のすがすがしい表情。いつもの目と透明感が違った。
〈ダルビッシュ+(プラス)3勝ぐらい、いけるんじゃないの〉(※編集部注/ダルビッシュの2011年度成績は18勝6敗)
本気の予感をぶつけてみたら、
「それって…20勝超えちゃうじゃないですか! とっても、ムリっす!」
明るく笑い飛ばした斎藤佑樹。
そして、「7秒」持ったぐらいの間があってから、
「ダルビッシュ-(マイナス)3勝ぐらい…だったら…」
こっちの背中に小さくつぶやいた。
※週刊ポスト2012年3月23日号