米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設問題をめぐって迷走が続く民主党政権。日本の安全保障の問題は、いつどこで自治体の権利の問題にすり替えられてしまったのか。 以下、落合信彦氏の指摘である。
* * *
2月27日、沖縄県庁の知事応接室。
首相就任後、初めて沖縄を訪問した野田佳彦が、知事の仲井眞弘多に対して深々と頭を下げる。報道各社が一斉にフラッシュを焚き、テレビ局のカメラマンは謝罪する野田を大写しにした。
民主党政権誕生以来、こじれにこじれている普天間飛行場移設問題について、首相が県知事に詫びているわけだが、私には“異様な光景”に見えた。
その日のTVニュースでは、県庁を取り囲むデモ隊が、「首相は県庁に入るな! 帰れ!」とシュプレヒコールをあげる様子が映され、スタジオにいるコメンテーターは、「国が地元住民の目線に立って、普天間問題の解決に取り組むべきだ」と総括したのだと聞く。毒にも薬にもならない言葉である。地元住民の目線と言っても、色々ある。左翼活動家の目線か、右翼の目線か、それともテレビが流す情緒的意見にいとも簡単に吸い込まれてしまう何も考えない人々の目線か。
馬鹿馬鹿しくてそんなニュース映像は見る気にもならない。
仮に米軍が沖縄から去った場合に、日本の安全保障は一体どうなるのか? 中国が膨張を続け、北朝鮮の暴走が明日にも起こるかもしれない東アジアで、どうやって国民の生命と財産を守っていくのか? そうした視点の考察は、ほとんど取り上げられていない。
国と地方自治体の役割は違う。
国が担うべきは国家財政の管理と外交・防衛である。民主党政権にはその自覚が全くない。防衛問題が、いつのまにか地元自治体の権利の問題にすり替えられてしまった。「最低でも県外」などという詐術的なマニフェストが全ての間違いの始まりだった。
普天間問題が迷走し始めてからも、「安全保障に関しては素人だが、これが本当のシビリアン・コントロール」と妄言を吐く防衛大臣を就任させ、さらに後任は「コーヒーを飲むか飲まないか」という下らない話で国会審議を浪費する輩にする。国家の防衛を担うレヴェルにないとしか言いようがない。このようなトップを抱えざるを得ない自衛隊の現場は不安でたまらないだろう。
アメリカ側は口ではまだ日本について、「重要な同盟国」と言っているが、もはやそれは本心ではなくなりつつある。日本の防衛大臣を見れば、まともな交渉などできないと考えるのが普通だ。アメリカ議会の一部は既に、日本は自分の国を守る気など全くないと決めつけている。
今、アメリカは世界戦略の再編成に取り組んでいる。その一部として、米軍は太平洋における防衛ラインを、沖縄・フィリピンを結ぶラインからグアムまで下げるだろう。沖縄とグアムの間は距離にして2000km以上ある。
そんな中で中国は虎視眈々と沖縄を狙っている。中国の情報機関の人間が沖縄の飛行場や弾薬庫を密かに見て回っているという情報が次々と入ってきている。拙宅を訪れる中国人の何人かは沖縄には何度も行っている。もちろん目的は観光と言うが、諜報員が何度も観光で沖縄に行くわけがない。
日本の安全保障にとって極めて重大な事態が進行しているというのに、普天間問題は、国内問題に矮小化されている。
※SAPIO2012年4月4日号