マニフェストを掲げて政権交代を果たした途端に国民の負託を完全に無視し、国難に際して当事者能力を欠いて国家を混迷の淵に陥れる。こうした民主党政権の体たらくは、自民党時代よりひどいといわざるを得ない。第90代、第92代の内閣総理大臣をつとめた安倍晋三、麻生太郎の両氏は、「今の民主党は政権党の体をなしていない」と怒り心頭だ。政治ジャーナリストの藤本順一氏が司会を務めた対談は熱を帯びた。
――政権交代から2年半、東日本大震災から1年。これまでの民主党政権をどう見ているか。
安倍:震災復興が非常に遅れていることは由々しきことです。被災地では瓦礫の処理と除染が進まずに、福島の方々も将来に対して絶望的な気持ちになっている。自民党はなぜ民主党に協力しないのかと批判もありますが、自民党は行政府が実施すべき政策を577項目提案し、45本法案化しました。
麻生:役人を使えないから、何もできないんですよ、民主党は。
安倍:その通りですね。非常時においては、役人には100の力を120、130にして出し切ってもらわないと困る。そのためには裁量権をもたせて思い切り働けるようにしないといけない。ところが政治主導の名のもとに「君たちに裁量権は一切ない。明示的に決められたこと以外に及ぶ時には全部政治レベルまで話を上げろ」といわれたら、現場では何もできません。
麻生:阪神・淡路大震災の時と比較すると一番わかりやすい。当時の村山富市首相は社会党の人で、うちにはこの種の経験がないからと自民党に復興策を任せられた。そこで小里貞利さんを震災対策担当大臣に立てて、「君に任すから、思った通りやりたまえ。責任はこちらが持つ」といって現地に送った。結局、彼は天皇陛下への内奏や国会対策等以外は、東京に帰ってこなかったと記憶している。
安倍:求められているのはそうしたスピード感で、地方任せにせず、国が前面に出ていって判断していくことが必要です。その判断には常に批判が伴いますが、政権を担う者はそれを受け止めていかなければいけないんです。
麻生:非常事態においては組織は簡略化し、権限は集中させる。こんなことは基本です。ところが菅さんがやったのは、委員会を20いくつも作り、およそ現場には関係ない学者を呼んできて……。
安倍:菅直人さんという人物のパーソナリティが、常識を超えていたということも大きいでしょう。頭から「お前は黙ってろ」といわれたり、みんなの前で怒鳴られたりしていたら、官僚は力なんて出せません。
麻生:意気に感じてやるってのとは真逆だね。
安倍:例えば、私の地元(山口県)に水産大学があるんです。震災の時、練習船があいていたので、船に食糧や水、必要な物資を載せて被災地に持っていき、被災者の方たちを乗せて避難場所へ運ぼうとした。ところが役所から「用途から外れている」といわれてダメだった。
民主党のいっていることを忠実にやれば、そういうことになるんです。生活支援費の支給も、2万人もの人が申請しているにもかかわらず、当初はそれを受け付ける人が12人しかいなかった。気の利いた役人なら、とにかく人を集めて予算については後で何とかしようと考える。しかし、政治主導の名において、臨機応変な対応がほとんどできなかった。結果、復興がこれほど遅れてしまったことは残念でなりません。
※週刊ポスト2012年3月30日号