既得権益にあぐらを掻き、思考停止に陥ったテレビマンたちへ向けられる視聴者の不信感は、もはや臨界点に達している。視聴率は下がる一方で、国民のテレビ離れは加速している。
そして東日本大震災から1年を迎えた3月11日。すべての国民が厳粛な気持ちで臨んだ一日にテレビ各局が用意した「震災1周年特番」は、鎮魂の思いを台無しにしてしまう低能ぶりだった。そもそも朝から晩まで民放各局の番組構成は、記者クラブ報道と同様、金太郎アメのように切り口は同じ。
そんな中、テレビ局が「刺激的な映像」を求めれば求めるほど、苦しむのが取材対象となる被災者たちである。
岩手県大槌町では、こんな事件が起こった。町民のひとりがいう。
「ある民放局のテレビクルーが、震災特番に向けて夫と2人の子供を亡くした50代の女性に密着取材を続けていたんです。女性が気の優しい性格だったこともあり取材はエスカレートしていった。“仏壇にはいつ手を合わせるんですか”と執拗に催促したり、目に余る行為があったらしい。その結果、最後は親族によって追い返されることになった」
震災発生後、同様のトラブルは各所で起きていたようだが、当然そんな醜聞をテレビが自ら報じるわけがない。
キー局の番組制作関係者が本音を打ち明ける。
「貴重な“取材に応じる被災者”の情報はすぐに業界内で伝わり、そこにテレビ局全社が群がるという構図になる。だから番組そのものも似たような切り口になってしまう。いい画を撮るため、結果的に被災者の心情を無視したケースは少なくない」
被災者たちの不信感を象徴しているのが、全校生徒108人のうち74人が死亡・行方不明となった宮城県石巻市立大川小学校の慰霊祭だった。
3月11日、同校では追悼行事が行なわれたが、実はそこに現われた児童の遺族はわずか数組に過ぎなかった。当日、校庭に大行列していたのは近隣住民とマスコミ関係者が大半だったのである。
同小学校に足を向けなかった遺族のひとりが複雑な心境をこう話す。
「当日、あの場所に行っても、またマスコミの餌食になるだけだと思って……。顔前にマイクを突き付けられ、無理に思いを言葉にさせられ、また傷つくだけです。私ら遺族は、8日前の3日に別に慰霊祭を済ませていた。とにかく、ただ静かに2時46分を迎え、子供の冥福を祈ってやりたい一心でした」
※週刊ポスト2012年3月30日号