中国の温家宝首相は、3月5日に開幕した全国人民代表大会(全人代=国会に相当)の冒頭、政府活動報告を行ない、今年の経済成長率目標を7.5%と定めることを宣言した。常に拡大を続ける中国だが、一方では急激な成長のほころびもあちこちに生じている。中国の政治経済に精通するジャーナリストの相馬勝氏が解説する
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製造業の生産過剰の弊害で、環境汚染が深刻化していることも見逃せない。6日の上海の天気は「晴れ」だったが、頭上には大気汚染による灰色の空が一面に広がっていた。上海在住の日本人ビジネスマンは、「そういえば、もう5か月もすっきりと晴れた日を見たことがない」と語るほどだ。
長江流域の水質汚染も深刻だ。上海市内の一般住宅では水道水は飲めないどころか、泥のように濁っているところも多い。「水質汚染に耐えきれずに帰国した日本人駐在員もいる」と、このビジネスマン氏は表情を暗くする。
環境問題のみならず、経済最優先の政策は、市内の至るところに綻びをもたらしている。現地駐在員によると、前述の上海センタービルの建設現場周辺の道路にひび割れが入り、大騒ぎになったという。ビルの重さに地盤が耐えきれなかったとみられている。
この周辺の土地は泥や多量の水を含む軟弱地盤であるため、隣接する森ビル資本の上海環球金融センタービルの場合、地盤沈下を防ぐためにコンクリート杭を2271本も突き刺し、さらに巨大な耐圧板を敷いて安定を確保した。
中国の政府系企業が建設する上海センタービルにも、同様の対策が施されているのだろうか。これはあくまで一例であり、このような人為的な問題が経済政策の成否を大きく左右するといってよいだろう。
※週刊ポスト2012年3月30日号