東日本大震災では文字通り命懸けで最前線で戦った消防団員。彼らは特別職の非常勤地方公務員だが、多くは本業を持ち火災や自然災害が起こると現場に急行する。地震発生や津波警報発令時に受け持ち地域の水門を閉めることも主な任務だ。
釜石市消防団第6分団第2部の久保秀悦部長と大森秀樹部長代理は地震発生直後、岩手県両石町にある水海水門の遠隔操作室に駆け込んだが、機械が動かない。ならばと水門上の操作室に走り手動閉鎖を試みるが、未経験で正確に操作できず焦りが募った。
「『門を閉めねば』の一心でした。ようやく閉まりかかり海を見たら5mくらい潮が引いていた。『来るぞ!』と叫んで突っ走った」(久保部長)
12mの水門を軽々と越える津波を間一髪逃れた2人は、自宅を流されながら住民の避難誘導を続けた。
苛酷な任務と奉仕精神は消防団員の死者を結果的に増やす。被災3県で死亡・行方不明となった消防団員は253人。大多数が避難誘導などの公務中で、消防本部の27人を凌駕した。釜石市消防団でも14名が犠牲となった。
「水門閉鎖中に多くの死者が出て気の毒で仕方がない。自分が生きているのは運がいいだけです」(大森部長代理)
これほどの危険を背負う消防団員の手当は驚くほど少ない。
「釜石市の場合、年間報酬が約2万円で火災などによる一度の出動手当は1700円ほどです」(大森部長代理)
補償面も実に心許ない。先の震災では犠牲者が多くて準備金が足りず、福祉共済制度で遺族に支払われる弔慰金の規定である2700万円が1100万円に大幅減額された。団員の命を預かる久保部長は憤りを隠さない。
「こんなバカな話はねえ。消防団員も一人の人間。どこまで犠牲心を持たねばなんねえか。我々は究極のボランティアなのか」
それでも2人は今後も消防団員をやめるつもりはない。2人は口を揃える。
「誰かがやんねばねえんだ」
※SAPIO2012年4月4日号