約2000億円にのぼる年金資金が溶けたとされる、AIJ投資顧問を舞台とした巨額損失疑惑が、いよいよ大型経済事件化必至の情勢となってきた。注目が集まっているのは、2000億円の行方だ。その背後に何があるのか。ジャーナリストの須田慎一郎氏が解説する。
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事件の真相を解明していく上で、キーパーソンと目されているのが、新聞などで名前が挙がっている2人の野村証券OB、AIJ社長の浅川和彦氏と同社役員の松木新平氏だ。
だが、すでに業界内ではある疑問の声が上がっている。
「2人は営業畑一筋の言ってみれば“営業バカ”。カネ集めは上手だが、タックスヘイブンにファンドを開設して……などというスキームを組み立てられるようなタマじゃない」
こう断言するのは2人をよく知る野村証券OBだ。このOBはより重大な鍵を握る人物の存在を指摘する。
「この件は、間違いなく裏で絵を描いている連中がいると思っていい」
“黒幕説”を唱えるのは彼だけではない。筆者は他の業界関係者からも同様の指摘を多数聞いている。
そもそもAIJの前身は、米系運用会社の日本拠点だったが、2002年に浅川氏が買収、2004年に社名を変更して今に至っている。その運用手法は極めてシンプルで、「日経225オプション」の「売り」を軸としたもの。所謂デリバティブ取引だ。しかし、ある証券会社役員はこう証言する。
「デリバティブ取引であることには間違いないが、これは最も単純なタイプで、集めた金を全額そこに突っ込んでいたとは考えにくい。普通に取引していれば、2000億円もの損失に至るような投資ではない」
すでに、元手資金の300倍のデリバティブ取引に手を出していたという話も出ている。こうした状況が、証券業界内で広まる“黒幕説”の根拠となっている。
「仮に“黒幕”がAIJとまったく正反対のポジションを取っていれば、そこは確実に利益を出すことができるわけだ……」(前出同)
捜査次第で、この巨額損失事件は、巨額詐欺事件の色彩を帯びる。2000億円の行方の解明が待たれる。
※SAPIO2012年4月4日号