民主党政権の体たらくは、自民党時代よりひどいといわざるを得ない。第90代、第92代の内閣総理大臣をつとめた安倍晋三、麻生太郎の両氏は、「今の民主党は政権党の体をなしていない」と怒り心頭だ。政治ジャーナリストの藤本順一氏が司会を務めた対談は外交問題にも及んだが、二人の民主党に対する姿勢はかなり厳しかった。
* * *
――TPP(環太平洋経済連携協定)については、自民党も賛成の立場だが。
安倍:日本にとって自由な貿易環境はプラスです。私が総理の時も、麻生さんに外務大臣としてEPA(経済連携協定)やFTA(自由貿易協定)を積極的に進めてもらった。私はその延長線でTPPも考えていますが、当然、国益にかなうかどうかを個別に考えるべきだし、それは交渉によるんです。
麻生:そう。うまく交渉して守るべきものは守っていけばいいのです。
安倍:例えば農業分野がGDPに占める割合は日本では1.5%。「後の98.5%は犠牲になっていいのか」という議論がありますが、これは間違っていると思います。農業がGDPに占める比率は英米は1%くらいしかないし、農業大国のフランスだって2%、オーストラリアだって3%にすぎない。しかし、どの国もみんな手厚く保護しているんです。なぜなら食糧というのは金で買えない可能性もある。歴史がそれを示していると思います。アメリカだって、砂糖は非関税化できないんですから。
麻生:関税を完全にゼロにできる国というのは、おそらくシンガポールとブルネイだけですよ。アメリカがサトウキビを自由化するなんてことは、未来永劫ないんじゃないかな。牛肉だってそのまま自由化したら、日本で売られる肉は全部オージービーフに変わる。
安倍:後は交渉技術の問題ですが、今の民主党政権にできるのか、大いに疑問です。そもそも普天間で大失敗をやらかした後に、菅さんがいきなりTPPをいい出した。最初から負い目をもっているんですね。我々の時は、日本はインド洋で給油活動を行ない、サマワでイラクの支援もしていた。
そもそも小泉さんが、イラク戦争にいち早く支持を表明していた。実はこういうことが大きいんですよ。交渉に際して、こうしたことを言下に匂わせたり、時には直接いう。すると他の分野の問題でも交渉がとても有利になるんです。それが今はまったく逆になっている。
麻生:もうひとつ大事なのは、交渉するヤツが誰か。僕たちだったら、「この問題だったら経産省のあいつだ」とか、「外務省なら彼だ」とわかったよ。しかし、役人を使いこなせていない今の民主党政権にTPP交渉をさせるのは大いに不安。言い値でやられたらとんでもないことになる。幕末に結んだ条約も、明治になってえらい苦労してやっと不平等を解消したわけだから。
安倍:外交問題は、すでに民主党政権の失政で取り返すのが困難なところにきてしまっています。米国は防衛費を大幅に削っていき、陸軍を8万人減らすことを決めています。2015年には朝鮮半島の指揮権が米国から韓国に移り、在韓米軍が撤退していくことになる。それまでに普天間の問題をきちんと解決しておかなければいけない。
アジアには冷戦の残滓が色濃く残っていて、中国は市場経済を導入しているとはいえ、共産党による一党支配で、軍備は増強を続けている。北朝鮮の問題もあり、日米が東アジアの安定について率直に話せない状況になっているのは大変由々しいことです。
※週刊ポスト2012年3月30日号