国産サイクロン掃除機のパイオニア、シャープのプラズマクラスターサイクロン掃除機が市場で大旋風を巻き起こしている。
ネイチャーテクノロジーという言葉をご存じだろうか。動物や昆虫、植物などの自然界に存在するかたちや構造を研究し、工業品に取り込もうという生物模倣学。この分野に力を入れているのが、シャープだ。
すでにエアコンの室内機や室外機のファンの羽根に、アホウドリやイヌワシの翼、トンボの羽の形状を採り入れ、従来の航空工学を応用したエアコンのスペックを凌駕し、周囲を驚かせている。
ネイチャーテクノロジーを駆使した開発で知られるのは、エアコンの気流、洗濯機の水流などの研究に従事し、社内で“気流の神様”と異名を取る要素技術開発センター主任研究員の大塚雅生氏。
大塚氏は従来の航空工学を応用し、これまで気流を研究してきたが、それも頭打ちとなった。ブレークスルーを模索するうちにネイチャーテクノロジーに出合ったという。
「家電にとって航空工学は過剰装備。ネイチャーテクノロジーの方がマッチする。当初は鳥や昆虫が中心でしたが、より視野を広げようとしたときに猫の舌の力を知ったのです」
猫の舌の表面には小さな突起が無数に、しかも一定方向を向いてついている。そのため舐めればやすりのような効果を発揮する。あごの力が弱い猫が骨についている肉をきれいに食べることができるのは、舌のやすり機能のおかげだ。
そこで、社内で取り扱う製品で、効果を発揮できそうなものを探ると、目に留まったのがサイクロン掃除機だった。
猫の舌構造を採り入れたブレードの試作機を作り上げた。試用してみると、吸い込んだゴミをぐんぐん圧縮し、捨てる際のゴミの再膨張も防いでいた。
その後、量産体制は急ピッチで進められた。細部の調整が必要だったが、開発を担当するランドリーシステム事業部商品企画部副参事・奥田哲也氏がそれを買って出た。
「私はこれまで開発のことを知り尽くしていたつもりでしたが大切なことを忘れていました。すべてのことは『進む』のではなく、『進める』という強い姿勢が必要なんです。その先に誰も見たことのない新しいものがある。これぞ『開発の神髄』です」
“猫の舌”の魔術は奥田氏をも虜にしていた。
※週刊ポスト2012年3月30日号