セ・リーグにも今季から予告先発が導入され、中日などはスコアラーを11人から8人に減らした。しかし、スコアラーと同じく悲鳴をあげるのがスポーツ紙の記者だ。紙面の当日カードの横に掲載されている「先発予想」の欄。普通の読者は何気なく読み飛ばすかもしれないが、実は業界では重要な項目として知られていた。
「記者にとっては予想が当たるか外れるかで、評価が大きく変わってくる。特に系列紙(巨人=報知、中日=トーチュウ、ヤクルト=サンスポなど)では、予想が正確であるほど、そのチームに食い込んでいると見なされ、かつては的中率がそのままボーナス査定に跳ね返るともいわれていた。
球団首脳陣やスコアラーからも注目されていた。落合監督などは、初先発を当てた系列新聞の記者にどこから情報が漏れたのか犯人捜しをしていた。系列紙が対戦相手の予想を外すと、“ちゃんと取材しろ”とドヤす監督もいた」(在阪スポーツ紙デスク)
過去には、「シーズン中に、わずか2回しか先発予想を外さず、若い記者から“予測の神様”と呼ばれる記者がいた」とか、「あまりにも外さない記者がいたので、ライバル紙が調べると、選手と内通していた」などという逸話もある。
「球団とスポーツ紙は持ちつ持たれつの関係で、球団の首脳陣から電話がかかってきて“情報を教えてくれ”といわれることもある。そこでの情報の確度が高いと、相手との信頼関係に繋がり、将来に役立つ。何年か担当記者を務めた後、新聞社を離れ、球団に入って面倒を見てもらう記者も少なくない」(同前)
あるスポーツ紙の記者は、某球団のスパイとして働いていたこともあるという。ベテランジャーナリストが語る。
「スコアラーは相手ベンチには近づけないので、その代わりにブルペンで誰が投げているとか、投手コーチがどのような話をしているかなどを細かくチェックしていた。ところが、その“取材”が紙面に反映されないので、“特定球団のスパイとして動いている”という疑惑が出たのです。それに気づいていた人は多く、野村克也監督などは、その記者が来ると、“おお、スパイが来た”などといっていたくらいです」
ところが、予告先発となればスパイは用済みになってしまう。スポーツ紙記者の給料や出世の足がかりまでもが、変動をきたしかねないというのだ。
もっとも、先発予想だけで大きな顔をしていたベテランを尻目に、「これで純粋に記事で勝負ができる」と意気込んでいる若い記者も少なくないとか。予告先発のもたらす予想外の「球界活性化」といえるかもしれない。
※週刊ポスト2012年3月30日号