2012年の世界経済はギリシャに端を発したユーロ圏の債務危機に最大の注目が集まっている。しかし、その陰で政界経済を牽引してきた新興国にも危機が迫っていると指摘するのはフェニックス証券社長の丹羽広氏である。為替を通じて広く世界経済を分析してきた丹羽氏が解説する。
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ユーロの債務危機は確かに深刻だが、実は欧州の問題よりも中国、インドで起きている資産バブルの崩壊が今後、それ以上に深刻になるのではと懸念している。
中国の現地情報によると、空室のマンションやオフィスをキャピタルゲイン狙いだけで手付金なしでひたすら転売を繰り返す状態が続いていたが、それが数珠つなぎで高値を極めた後、突然売れなくなるという恐ろしい事態が上海や香港で起きているという。中国当局の金融引き締めが原因だ。当局ももちろん現状を把握しており、慌てて金融緩和を始めているが、金融緩和だけでバブル崩壊を止めることができないのは、過去の日本の例をみれば自明である。
当然、その他の資産価値や雇用にも影響してくるだろう。中国発の世界同時株安などのショック的なこともあり得ると思う。
アメリカにも不安定要因はたくさんあるが、ヨーロッパ、中国やインドなどアジア新興国に比べると、無風に近いと感じている。
では今年、最も元気な国はどこか。世界経済の文脈の中では意外に思われるかもしれないが、それは日本である。
東日本大震災や洪水など未曾有の自然災害に襲われたことは悲しく不幸な出来事だった。しかし、日本は力強く立ち上がり、被災地の復旧・復興需要も増え、各種企業の業績に寄与し始めている。
確かに日本の財政は問題を抱えているが、その大半は医療と年金だ。恩恵を受けている高齢者世代はその所得を預貯金という形で子供や孫の世代に移転している。つまり、銀行の預貯金を通じて国債を買っているわけだ。この点を査証すると、日本の財政は意外と健全で、公共事業を増やす余地もまだ十分ある。世界も今年はこの国に大きく注目してくるだろう。
※マネーポスト2012年春号