2008年のオリンピックを機に一度は改善した中国の首都・北京の大気汚染が再び悪化していることは当サイトでも報告したが、経済の中心である上海はさらに輪をかけて悪化しているという。産経新聞の香港支局長を務めたジャーナリストの相馬勝氏が、最新の上海の状況を報告する。
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「北京の視界は、中国の政治と同じく一寸先は闇」と最近の中国の権力闘争と引っかけて、北京の大気汚染のひどさを表わす言葉が北京で囁かれているのだが、このところ北京ばかりでなく、上海でも大気汚染や水質汚染などの環境の悪化が問題になっている。中国だけに収まればまだしも、日本にも大きな影響を及ぼしている実態がある。
私は今月初旬、3泊4日で上海を訪れた。飛行機が上海に到着する際、いつも通り、機長から現地の天候についてのアナウンスがあったのだが、その内容に違和感を覚えた。
「当機は間もなく上海浦東国際空港に到着します。現地の情報では上海は晴れですが、濃霧がかかっています」
実際、空港に着いてみると、空は霧がかかったようにどんよりとしていた。どうも濃霧というよりも、スモッグで曇っているという感じだった。
日系の航空機会社のパイロットは「日本から中国に向かうと、長崎をちょっと越えたあたりで、大気が黒くなっている層が広がっている」と語っており、中国で汚染された大気層が日本列島に迫っていることを明らかにした。
上海在住の中国人の経営コンサルタントは「車の影響もあるが、上海郊外や内陸部の工場が大気汚染除去装置を付けずに、煤煙をまき散らしているのが最大の原因だ。また、水質汚染もひどい。長江や市内を流れる黄浦江はドブみたいになっていて、飲用どころか、トイレ用の水にしても、臭いが強くて使えない」と指摘する。
日系企業や、日系のホテルの場合、浄水装置を付けているので、それほどでもないが、一般の中国人の経営する工場や事務所ではトイレに行くと、水がドブのように臭ってくるということも経験した。
中国では5日から14日まで年に1度の全国人民代表大会(全人代=国家に相当)が開かれたが、大気汚染がひどい北京では、工場や発電の燃料を石炭からガスにすることが議論されている。
米マサチューセッツ工科大学(MIT)の試算によると、大気汚染による中国の経済損失は2005年の段階で、1120億ドル(約9兆円)に及んでいる。世界保健機構(WHO)は大気汚染による死亡者数は2007年で65万6000人にも達していると発表している。
また、温家宝首相も今年の全人代最終日の記者会見で、経済成長率の目標をこれまでの8%から7.5%に引き下げたのは、「これまでのように資源を浪費したり、また環境を悪化させるような投資や生産の仕方から抜け出すためだ」と語り、資源の浪費防止や環境汚染の改善を強調しているほどで、中国経済の成長目標の設定にも影響を及ぼすほど汚染が深刻であることを認めた形だ。
ちなみに、日本の国立環境研究所の研究によると、日本に降ってくる、酸性雨などの原因となるイオウ酸化物の発生源は、年間を通して見ると49%は中国が原因であると発表している。