岩手県沿岸部の三陸海岸に沿って南北108kmの鉄路が走る三陸鉄道は、久慈~宮古間の北リアス線と釜石~盛間の南リアス線に分かれる。地域住民にとって欠かすことのできない「足」だが、震災で一時全線が不通となった。
震災から5日後に、北リアス線の一部で運転を再開したが、現在も、南リアス線は全線不通のまま。北リアス線も一部を除いて不通で、復旧を急ぐ。この4月には北リアス線の田野畑~陸中野田間が開通する予定で、寒空の下、急ピッチでレールの敷設作業が進められている。4月からは運転速度も最高時速45kmから震災前の90kmに戻る。
悩みの種は、合計110億円とも見積もる復旧費用だ。月間の運賃収入は700万~800万円と、震災前の4分の1。国の補助もあるが、「支援を待つばかりではいけない」と、三陸鉄道の望月雅彦社長が決断したのが「物販拡大」だった。
「津波で流されたレールを“復興祈願レール”と名付けて、10cmに切り出したものを5万円、5cm3万円で8月に売り出したところ、1日で200個が完売しました。10月末には第2弾の販売を始め、好評をいただいており、この4月からまた販売する予定です。復興を祈念する『きっと芽がでるせんべい』も発売したところ、全国から注文をいただいています」
この結果、物販の売り上げは震災前の2倍になっているという。2014年4月の全線開通が目標。目指すのは、「レールを元に戻すだけではなく、人を呼び込めるような魅力ある鉄道にすること」だ。線路がつながり、観光客が来れば、沿線地域の復興は加速する。
地元は早期の復旧を求めているが、あまりの被害の大きさに、国や県の役人の中では“廃線やむなし”との声もあった。しかし―― 。
「鉄道が廃止されて栄えた町がありますか。ひとつもないんじゃないでしょうか」
望月氏はそう問いかけ、微笑んだ。
※SAPIO2012年4月4日号