朝日新聞による巨人軍選手の巨額契約金報道。1月上旬の冬空の下、都内の閑静な住宅街にある邸宅を朝日新聞のI記者が訪れていた。
訪問先は読売幹部。記者は玄関に現われた幹部に向かってこういった。
「見てもらいたいものがあるんです。何もいわなくて結構です。これは本物か偽物か。イエスかノーで答えてください」
I記者が携えていたのは厚さ10センチにも及ぶ封筒だった。件の「内部資料」がそこには入っている。 続けて訴えた。
「読売に怨みがあるわけじゃありません。僕はこの資料で球界の浄化がしたいんです」
このI記者について、同僚の朝日記者が語る。
「年齢は30代半ば。名実ともに社会部のエースです。元は栃木県の地方新聞で活躍していたのを朝日が引き抜いてきた。実は大阪社会部で大阪地検のFD改竄事件をスクープしたのは彼なんです。その功績を引っ提げて、昨年から東京社会部に移ってきました」
渡辺恒雄会長を敵にしてただじゃすまないよ――そう諭した読売幹部にI記者は、こう言い切った。
「責任をとらされて辞めることになるかもしれませんが、それでも構いません。僕は父も母も癌で死にました。所詮、田舎記者から転職して来た身です。守るものはない。何も怖くはありません」
こうしてI記者は自らの境遇まで語って読売幹部に迫ったという。
一方でI記者がここまで強気に出たのには「後ろ盾もあるから」と朝日関係者はいう。
「FD改竄事件で、新聞協会賞を受賞した彼のことを、秋山(耿太郎)社長は非常に買っている。秋山社長が、今回の契約金報道をどの時点で知っていたかはわからないが、読売との“全面戦争”になることは必至。事が事だけに上に諮られるだろうから、ゴーサインを出したのは間違いありません」
I記者は社内にも読売への内通者がいるかもしれぬからと、内部資料は会社には置かず常時持ち歩いていたという。が、やはりというべきか、読売側もこうした展開を事前察知していたようだ。読売関係者が内幕を語った。
「清武英利氏が退任した11月頃から今日に至るまで法務、広報、社長室が一体となって“非常時の対策”が練られていたようだ」
朝日が報道するやただちに読売が反論記事を連発したのも、周到な準備があったと考えれば納得がゆく。異様な紙面だが、他紙やテレビはその後ほとんど報道していないのだから、それなりの効果はあったということだろう。
しかし、前出の読売関係者が続ける。
「今回の記事はまだ序の口に過ぎない。巨人の“醜聞ファイル”には読売にとってもっと都合の悪い内容のものが含まれているのではないか。その流出を防ぐために、法的手段をちらつかせるなど異様なほど執拗で強硬な対応がなされているとしか思えない」
※週刊ポスト2012年4月6日号