運用年金資産約2000億円を消失させたAIJは“自己申告”によって、最も人気の高い投資顧問会社の一つに挙げられていた。今回明らかになった最大の問題点は、厚生年金基金(企業年金+厚生年金の一部)を運用する投資顧問会社への規制や監視体制がないことだ、と大前研一氏は指摘する。以下は、大前氏の解説だ。
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AIJ問題の真相とは何か? 考えられることは二つしかない。一つは、年金運用を入り口にした詐欺行為である。つまり、もともと運用する気がなく、集めたカネは海外に持っていって上層部が自分たちの懐に入れた。もう一つは、まともに運用するつもりだったが、運用能力がなくて海外の詐欺に引っかかった。このどちらかであることは間違いないだろう。
ただし、今回明らかになった最大の問題点は、厚生年金基金(企業年金+厚生年金の一部)を運用する投資顧問会社への規制や監視体制がないことだ。なにしろAIJは“自己申告”によって、最も人気の高い投資顧問会社の一つに挙げられていたのである。
かつて年金資産の運用は、元本割れリスクのある資産への過剰な投資を抑えるため、「5・3・3・2」規制によって資産配分が制限されていた。国債などの元本割れのない安全性の高い資産を5割以上組み入れ、株式を3割以下、外貨建て資産を3割以下、不動産を2割以下に抑えるという規制である。だが、それは1997年に完全撤廃された。
その一方では、信託銀行と生命保険会社に限られていた厚生年金基金の資産運用が、1990年から新たに投資顧問会社にも認められた。当初は、運用できる資産に制限があったが、完全自由化された1999年以降、投資顧問会社の受託シェアは急速に拡大してきた。
ところが、証券取引等監視委員会が約250社ある投資顧問会社を検査するのは20年に1回くらいといわれ、実際、AIJは今の社名になった2004年から一度も検査を受けていなかった。金融庁や厚生労働省のチェックも事実上、ないに等しい。
要するに、厚労省は年金資産の「5・3・3・2」規制を撤廃し、投資顧問会社に厚生年金基金の運用を認めておきながら、年金資産を安定運用するために必要な仕組みを作らず、投資顧問会社を野放しにしてきたのである。
※週刊ポスト2012年4月6日号