仮設住宅で女性たちが談笑しながら桜色、青色の紐を編んでいく──作っているのは、手首につけるミサンガだ。この仕事をしている女性は今、岩手県と宮城県で、約300人にのぼる。
活動の“仕掛け人”は、盛岡博報堂の雫石吉隆氏。
「避難所で、すべてを失って呆然としている人が少なくない中、知人の75歳の女性が、食事の準備などでイキイキと働いているのを目にして、“仕事があればみんなも元気になるんじゃないか”と思ったのがきっかけでした」
彼が提案したのは、漁網と麻紐でミサンガを作ること。商品名「浜のミサンガ環」として、東北各地や東京・名古屋・大阪などで販売されている。
「価格は1セット1100円で、そのうち材料費や販売経費などを除いた576円が、作り手の方たちの収入になります。また、作り手をサポートする現地の被災企業・被災者にも手数料が支払われ、1セットにつき計700円以上が被災地に届いています」
陸前高田市の仮設住宅に住む船砥千幸さんは、同地域の制作チームリーダーだ。彼女がアルバイトをしていた水産会社は流され、収入のあてが全くなくなっていた。
「4人の子供と孫1人を抱えて、生きていくにはとにかく収入が必要でした。ですから、このお話を聞いて、すぐに取り組みました」
船砥さんは、避難所で知り合った人に声をかけて、仲間を募った。そして多くの女性たちが、1か月で数万~20万円の現金を手にできたという。
雫石氏はある作り手に言われた。
「孤独だったけどミサンガのおかげで友だちもできた。それがうれしい」
※SAPIO2012年4月4日号