「パンシェルジェ検定」「BBQ検定」……検定ブームはフード業界でも賑やかだ。とはいっても、その背景には世知辛い世相がある。食事情に詳しいライター・編集者の松浦達也氏が解説する。
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最近またも「検定」のまわりがにぎやかだ。といっても、事情は各検定ごとに悲喜こもごものよう。3月上旬には、明石特産の魚介類に関する知識を問う『明石・タコ検定』の休止が発表された。全国紙では「ご当地検定ブーム去り…」と見出しを打たれており、実際、市からの補助金廃止や受検者減少が理由のようだ。
一方、人気に沸いているのが、「食関連」の検定だ。『食の検定』『食育検定』『料理検定』などの「食」ど真ん中の検定から、『BBQ検定』のようなシチュエーションに特化したもの。なかには『パンシェルジュ検定』『パンアドバイザー』など、カブっているジャンルもある。それほどまでに、現在「食」まわりの検定人気は高い。
検定系コラムニストの石原壮一郎さんはその理由をこう語る。
「21世紀の日本は誰もが不安を抱えながら生きています。自分はちゃんと一人前なのだろうか、漠然と知って安心したいという願望があるのかもしれません。『自分の居場所を感じる』ことができるという効果はあるでしょう」
食関連検定は芸能人からの人気も高い。3月15日にはアミーゴこと、鈴木亜美が『フードアナリスト』検定四級の取得をブログで報告。タレントの小倉優子もパンアドバイザーを取得している。そういえば、ミュージシャンの「ゆず」の二人も『BBQ検定』を受検し、見事インストラクター資格を得たという話も聞いた。趣味のフィールドのスキルを上げ、「資格」のような「形」を得ることで、いっそう日常の充実が図られるということかもしれない。
「例えばTOIECのような、あまり大まじめな資格検定になってしまうと、人間の価値が左右されてしまいます。『ご当地検定』のように、デキなくとも笑っていられるものは、ある種、社会のアンチテーゼのようなところもありました。そうした『隙間』が狭くなってきている、ある種の世知辛さを感じます」(石原氏)
昨年の原発事故以来、誰もが「食」に対して敏感になり、口にするものの正体を気にするようになった。何かをひとつ知れば、その先も探りたくなるというのが人情というもの。「食検定」ブームの人気の理由はそんなところにあるのかもしれない。
今年の9月にはサッポロビールにより、第一回「日本ビール検定」が行われる。さらには料理などの技能を審査する「家事チャレンジ検定」なる検定を、福井県が自治体としては全国で初めて立ち上げる。ちなみに福井県は「県内女性の余暇活動時間が全国42位と低く、仕事や家事時間は全国3位」と男性の家事参加比率が低く「男性の家事参加を促し女性のゆとり時間を増やすのが狙い」なのだとか。確かに世知辛い。