日本に競争力がない分野の典型が「農業」とされているが、本来なら日本は農業大国になれる潜在能力がある。日本の農業は規制や既得権によって弱体化しているだけで、その戦犯は農協と農水省、族議員である。
その証拠を、農水省自身が2009年に示している。
コメの減反政策は米価を維持することを目的に行なわれてきたが、もし減反政策を廃止した場合、何が起きるかを農水省はシミュレーションした。結果は驚くべきものだった。
減反に応じていた農家が増産に転じ、作付面積は60万ha増加。米価は1年目に「1俵=7506円」と現在のほぼ半値になり、一時的に5894円まで下がるとされている。国際競争力が大幅に高まることを農水省が認めたのだ。
こんなに米価が下がったら農家はやっていけないと思うかもしれないが、本気で農業に取り組んでいる専業農家の場合、廃業した農家から農地を集約して大規模化し、効率化できるので問題ない。もともと減反政策とは、片手間で効率が悪い農業をやっている農家(兼業農家に多い)を守る政策という側面がある。
コメが増産されて半値になれば、間違いなく国内消費量は増加する。価格競争力があるのだから、海外にも売れる。
現在の価格でも高品質な日本米は中国の富裕層に大人気だが、実は中国への輸出の障壁になっているのも農水省と農協である。
『農協との「30年戦争」』(文春新書)の著者で、愛知県で農業生産法人を経営する岡本重明氏が語る。
「農水省は、中国市場へのコメ輸出を株式会社全農パールライス東日本に独占させている。全農は農協のコメしか認めていないので、農協が中国市場を独占し、利益はすべて全農に入るしくみになっている」
このように農水省や農協が競争力を奪い続けているのが現実で、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)への参加は、農協支配からの脱却が必須条件だ。
「日本の農業はTPPに参加しても生き残れるだけの国際競争力を潜在的に持っている。農業を経済産業省の管轄にし、農家が民間の商社などと直接組んで農作物を輸出できるようにすれば、日本の農業は必ず伸びる。農水省は60年やっても結果を出せなかったのだから、解体すべきです」(岡本氏)
もし日本のコメに競争力が生まれ、輸出産品となればどの程度の金額になるのか。農林水産政策研究所の「平成22年度 2020年における世界の食料需給見通し」によれば、2008年時点でコメの最大輸出国はタイで、20年時点での輸出量予測は1270万トン。仮に日本がその1割のシェアを取ったとすると、742億円の売り上げになる。
その10年後、2030年には工業製品と同じように、メイド・イン・ジャパンの農産物が世界を席巻することも夢ではないのだ。
※週刊ポスト2012年4月6日号