民主・自民・公明3党の合意により、月内の成立が確実となった児童手当法改正案が衆院を通過した。親の所得にかかわらず支給された子ども手当は姿を消し、4月からは名称も自公政権時代と同じ児童手当が復活する。
児童手当では、6月から所得制限が課され、夫婦と子供2人の世帯で年収960万円(所得額736万円)を超えると、手当の支給対象から弾かれる。
実は、所得制限の基準となる年収額は、世帯の合計ではなく、「生計の中心者(世帯で最も多く稼いだ者)」の収入である。そのため、夫の年収1000万円、妻は専業主婦で子供2人という家庭では手当は3分の2カットされるのに対し、同じ世帯収入1000万円でも、夫婦それぞれに500万円の収入がある共働き世帯なら満額もらえることになる。
厚労省『国民生活基礎調査』(平成22年度)によると、日本の夫婦の数は3290万2000組。うち共稼ぎは1429万7000組、専業主婦世帯は1495万2000組と、いまや両者の数はほとんど変わらない。今回の所得制限は専業主婦世帯を狙い撃ちする内容であり、国民を二分させて対立を招く懸念もある。
信州大学の真壁昭夫・経済学部教授がいう。
「新児童手当は、制度設計に根本的な欠陥を抱えた代物というほかありません。共働き世帯が急速に増えている今の日本の実態を考慮せず、旧児童手当と同じ『生計の中心者』の稼ぎのみで所得制限を敷いてしまった。そのため極めて不公平な制度へと成り果てた」
厚生労働省に質すと、こう答えた。
「不公平との指摘があることは承知しているが、あくまで3党合意で決まった内容であり、かつ(是正措置を)法案に反映させる実務的な時間もなかった」(同省・子ども手当管理室)
こんな時だけ政治主導を装って、自分たちは責任逃れするつもりなのだ。3党合意は半年以上も前であり、時間は十分あった。現に民主党政権はその間、制度名を「子どものための手当」に“しろ・しない”で、自民・公明両党とくだらない議論を延々と続けてきたではないか。
いや、あるいは本当に政治主導だった可能性もある。小宮山洋子・厚労相は、これまで「専業主婦イジメ」を進めてきた名うての“主婦キラー”だからである。
今年1月6日の大臣会見の場では、「一人一人が男性も女性もそれぞれ精一杯能力を発揮して生きていく男女共同参画の社会を作っていくため、足かせ・ハードルになっている制度があってはいけない」と、パートなど妻の年収が103万円未満であれば、夫の納める所得税が安くなる配偶者控除の廃止を唱えた。まるで、毎日家事に追われる専業主婦は、社会進出に後れを取った悪しき存在であるような言い草である。
さらに、サラリーマンの夫を持つ専業主婦が年金保険料の納付を免除されている第3号被保険者制度についても、「本当におかしな仕組み」(昨年9月5日発言)と、これまた廃止への意欲を公言した。
今回の所得制限はそれらに続く小宮山流“専業主婦攻撃”第三の矢といえる。
専業主婦にこれだけの仕打ちをしておいて、増加し続ける待機児童を解決するための保育所対策など、現実に主婦が働ける環境整備は手付かずのままだ。
厚労相就任当時、突然たばこ増税の話を持ち出して顰蹙を買ったことも記憶に新しいが、小宮山氏の政治信念は、どうも個人的な好き嫌いに基づくものが多いようだ。彼女がどんな価値観を持とうと自由だが、それが明らかな不公平を助長しているとすれば、見過ごすことはできない。
※週刊ポスト2012年4月6日号