中国人は「4本足なら机以外、2本足なら親以外、空を飛ぶものは飛行機以外、海を泳ぐものは潜水艦以外、何でも食べる」といわれるほど、食に貪欲である。しかし、そんな中国でもさすがに許されないことはあるようだ。中国の内情に詳しい田代尚機氏(TS・チャイナ・リサーチ代表)が報告する。
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事の発端は2月1日、中国の漢方薬メーカーである「帰真堂」が、中国版ナスダックといわれる「創業板」に上場を申請したところから始まる。
同社は、大量の熊を飼育し、生きた熊の胆嚢に管を差し込む手術を行ない、その後、身動きできないように檻に入れ、1日に2回、胆汁を採取している。それを酒に入れたり、粉末にしたりして、漢方薬として販売している。その消費量は国内では10%程度に過ぎず、残り90%は韓国や日本に輸出されているという。
自国の熊を犠牲にするやり方に対し、動物愛護団体「動物保護公益基金会」は2月14日、中国証券監督管理委員会に対して帰真堂の上場に反対する書簡を送付。その後、テレビや新聞などのマスコミが連日のように熊の悲惨な状況を報じ、帰真堂批判が高まっているのだ。
その騒動を受けて、帰真堂を擁護する立場の中国中薬協会の房書亭会長は16日、「熊は胆汁を吸い取られる時に非常に気持ちいいと感じる」と発言。それがインターネットで炎上したため、直後に「胆汁を吸い取られる際、熊は痛みを感じることはなく、生体に何の影響もない」と言い換えたが、火に油を注いだだけだった。
さらに、帰真堂に投資している蘇州鼎橋ベンチャー投資公司の張パートナーは「投資家の道徳水準は高くない。まず投資収益を考え行動する」と付け加えたことでさらに炎上が加速、同社を非難する声は全国的な広がりを見せている。
とはいえ、証券業界では上場申請資格を取り消すべきではないといった意見が多いのも事実。同社は国家産業政策上、支援される産業に属しており、業績に虚偽があったわけでもない。むしろ今後の業績見通しはよく、潜在成長力の高い企業であるといった評価が大勢を占めている。上場審査をする証券監督管理委員会も、判断基準はあくまで業績などに基づくため、倫理上の問題を審査することはない。法律上何の問題もない以上、上場は許可される見通しが高まっている。
ところで、そもそも生きた熊の胆汁はそれほど効果があるものなのだろうか。
前出の中国中薬協会の房会長をはじめ専門家たちも「熊の胆汁の代替品はない」と説明するが、熊の胆汁を合成する研究も行なわれて、ほぼ同じような化合物が合成できるようになっており、その効果も大差がないといった実験結果もある。また、檻に入れた不健康な熊から採取される胆汁は健康な熊から採取されるものと品質面で大きく劣るといった意見もある。