広大な霞が浦を囲む肥沃な大地に恵まれた茨城県行方市。60品目以上の農産物を生産し、農業生産額が全国2位の茨城県の中で鉾田市に次ぐ生産額を誇る。
しかし、福島第一原発の事故後は風評被害で自慢の農産物が大暴落した。例えば、通常1ケース600円のちんげん菜は半額以下になった。農家の石崎次男さんが嘆く。
「震災後、千葉県のちんげん菜から放射性物質が出ると、『茨城は福島に近いので危ない』との大合唱になり、放射線検査で『検出せず』と測定されても、悪い風評は止まりませんでした。出荷できたのは1割だけ。せっかく育てたちんげん菜をひとつひとつ手で抜いて、ロータリーで廃棄しました。行方市全体で90ヘクタール分(およそ東京ドーム20個分)を廃棄しましたが、頭の中が真っ白になりましたね」
ほうれん草やブロッコリーなども特産だが、これらの野菜も値が下がったり、買い手がつかないようになった。
そんな窮地の行方市を救うべく立ち上がったのが、その名も「女性セブン」の面々だった。正体は、市商工会と市役所で働く7名の女性職員──。
「商工会の事務局長から『女性目線で頑張ってほしい』と、私たちが“抜擢”されました。地元の食材を使って、何か特徴のある商品を開発しようということになったんです」(メンバーの中野和子さん)
メンバーの個々の年齢は内緒だが、30代~50代で平均年齢47才のパワフルな女性たち。しかしながら、7人の普段の仕事は、経理や事務。商品開発は全くの素人だ。
「“女性感覚”から健康志向にこだわり、糖分や塩分を控えたヘルシーなお菓子を作ろうと決めたまではよかったんですけど…」(リーダーの篠本和代さん)
まず素材に選んだのは、全国でも一部の地域でのみ栽培・収穫される「もち麦」。もち麦は品種名をダイシモチといい、食物繊維が白米の約25倍あるうえ、血中コレステロールを下げ、大腸がん予防に効果的なβグルカンが豊富という健康食だ。一方で調理が難しく、焼き上がりがぱさつくので商品開発は失敗の連続だった。
「頭の中で考えるイメージと出来上がりが全然違った。もち麦のクッキーを作ったら、焼き上がる前から割れてしまって、味は…」(メンバーの鈴木香代子さん)
メンバーの越川緑さんは公民館の調理室で試作したのち、自宅でも夜な夜な台所に立った。半年間の試行錯誤の末、ついに完成したのが、ほうれん草やれんこん、さつまいもなど行方産の野菜とたっぷりのチーズをもち麦と合わせた「なめがたケーク・サレ」(200円程度)と、行方産ひまわりの種やピーナッツを混ぜてサクサクの食感が楽しめる「もち麦クッキー」(2枚入り90円)だ。どちらも現在、行方市内の飲食店や洋菓子店などで販売されている。
「今後はもち麦を使ったピザやパスタも商品にする予定。健康を全面的にアピールして、行方市を活性化したい」(中野さん)
※女性セブン2012年4月12日号