円高などで国際競争力にかげりが見えるなど厳しい局面を迎えている日本経済。だが、日本の産業にはまだまだ底力がある。その一つが製薬産業で、日本の製薬会社の新薬創出力は世界的にも高い。
その有力な背景に日本の高度な医療がある。人口あたりに対するMRIの設置台数は米国の2倍でOECD平均の3倍、CTスキャンは米国の3倍でOECD平均の4倍。日本は間違いなく世界一高度な医療が受けられる国である。
NPO観光立国の理事長・小林瀁氏は、その環境を生かして、「メディカルツーリズム」で日本に観光客を呼び込むべきだという。
「技術水準の高さや費用対効果の大きい日本の医療は国際的に評価が高い。中国などアジア地域の富裕層をターゲットにしたメディカルツーリズムを成長分野として位置づけ、外国人向けの『医療ビザ』を新設するなどの方策が重要です」
日本政策投資銀行の2010年のレポートによれば、メディカルツーリズムの潜在的な市場規模は5500億円(2020年)にも上ると試算されている。
観光庁を中心に政府は「ビジット・ジャパン」戦略を展開しているが、ポイントを絞り切れていない中途半端なイメージ戦略では何の効果も挙げない。海外からの観光客を増やすには、ビザ発給・免除の拡大や出入国手続きの簡素化など、より具体的な措置を講じることが必要だ。
「外国人観光客誘致で障害になっているのは、旅行料金が高いことです。アジアなどの格安航空会社に広く門戸を開くことが必要。鉄道やタクシーも高いので、外国人専用のフリーパスを発行し、高速道路もシーズンオフは無料にしてもいいでしょう」(小林氏)
こうした問題がありながらも、原発事故の放射能風評被害でいったん減少した中国人観光客は、この1月の旧正月、いわゆる「春節」の大型連休に大挙来日し、1~2月の合計では過去最高となった。日本に魅力があるのは間違いない。
観光庁の試算を参考にすると、将来、毎年約7000万人が訪れる観光大国フランス並みに日本に観光客が来れば、28兆円もの経済効果が生まれるのである。
※週刊ポスト2012年4月6日号