国歌に見られる特徴として、君主や為政者、あるいはその治世を称えるものが多いことも挙げられる。ただし、そのことが「独裁国家」を意味するわけではない。「議会制民主主義のお手本」といわれる英国の国歌「神よ、女王を守りたまえ」(ゴッド・セーブ・ザ・クイーン)は、まさに「君主礼賛の歌」の代表例だ。
〈神よ、我らの慈悲深き女王を守りたまえ。(中略)永久に我らを導く、神よ、女王を守りたまえ〉
歌詞としては日本の「君が代」が世界最古の国歌といわれるが、英国国歌は演奏された記録が残る“世界最古の国歌”とされている。「国民が女王(エリザベス1世)のために、神に祈る」という内容であるが、この国歌を「封建主義的だ」などと批判する声は聞かない(なお、厳密には英国は正式な国歌を定めていないが、国歌演奏などではこの歌が流れる)。
さて、対照的なのは北朝鮮国歌「愛国歌」。タイトルは韓国と同じである。
〈朝に輝け、この山河。白金、黄金の恵みあふれる。三千里の麗しき祖国。五千年の歴史の中で、光り輝く文化を育んだ〉
何とも美しい歌詞だが、多くの国民が食料不足で困窮しているのに「恵みあふれる麗しき祖国」とは、ブラックジョークがすぎる。
興味深いことに、この歌詞をきちんと歌える国民は少ないという。というのも、国内の公式行事で歌われてきたのは金日成・金正日親子を讃える歌で、これが事実上の国歌になってきたからだ。だが、「金正日の歌」を国際会議などで演奏・斉唱することに無理があるのは、さすがに後継者・金正恩もわかっているのだろう。
※歌詞は『国旗・国歌の世界地図』(文藝春秋・21世紀研究会)、『国のうた』(文藝春秋・弓狩匡純著)に準じ、読みやすさを考慮して編集部で句読点を挿入した。
※週刊ポスト2012年4月6日号