カリスマトレーダー・羊飼い氏が、外為市場の旬な話題をウォッチするマネーポスト連載「FXトレンドフォーキャスト」。今回はFX業者のスプレッド競争について解説する。
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FXでの利益を増やすには2つの方法がある。第一に、取引がうまくなることだ。しかし、それが簡単にできるならだれも苦労はしない。
だが、第二の方法ならだれでも実行できる。取引のコストを減らせばいいのだ。トレードの収益からコストを差し引いた数字が利益になるので、コストを減らせば利益は増やせる。
FXのコストには主に取引手数料とスプレッドがある。以前は取引ごとに手数料が発生していたが、今は手数料ゼロが主流で、コストはスプレッドに絞られてきている。為替取引では買い値と売り値の2つのレートがあり、ドル円の買い値が77.03円、売り値が77.00円の場合、価格差である3銭がスプレッドとなる。この場合、決済時に相場が4銭以上想定方向に動いていないと利益は得られないので、狭いほど投資家には有利だ。
スプレッドを減らして利益を増やすのは簡単だ。有利な業者に乗り換えればいい。多くの投資家がそう考えた結果、業者間ではスプレッドを極限まで狭める熾烈な競争が展開されてきた。主流は5銭から3銭、そして2銭へとどんどん狭くなっていき、2008年には外為オンラインが「原則1銭『固定』」というサービスを打ち出した。
スプレッドは相場の状況や時間帯によって変動する場合があり、業者が提示するスプレッドよりも拡大することもしばしばある。「固定」とは、こうした変動をなくし一定のスプレッドを原則的に保証しているのだ。
こうしたサービスは人気を呼び、他社が追随する動きもみられた。さらには、スプレッドが1銭を切る業者まで次々と登場し、極小スプレッドや固定スプレッドを看板に掲げた新興の業者が、業界に旋風を巻き起こした。いわゆる「ネオFX」業者である。
スプレッドは投資家にとってはコストだが、業者にとってはほぼ唯一の収益源だ。プロの市場であるインターバンク市場でもスプレッドは1銭以上存在するとされるので、1銭を下回るスプレッドでは理論上企業は利益を出せない。また、スプレッドは常に変動するものなので、固定スプレッドも理論上ありえない。
こうした厳しい条件下で、ネオ業者はインターバンクの中で効率的な売買ポイントを探し出したり、顧客の買いと売りの注文を相殺するなどし、こうしたサービスをシステム的に可能にしたが、なかには不正な操作で利益を確保する悪質な業者もあると噂された。このため古参や大手の業者は当初ネオ業者を批判し競争から距離を置いていたが、顧客がどんどん奪われ参戦せざるを得なくなった。
そして2009年には、DMM.com証券が0.5銭という他社を圧倒するスプレッドでサービスを開始し、競争はいったんピークに達した。なかには0銭という業者も登場したが、実際には0銭で取引できるタイミングが非常に少なく、金融庁の規制でこうした表示ができなくなった。
2011年は0.7銭付近の通常スプレッドで各業者がしのぎをけずっていたが、2012年にサイバーエージェントFXが期間限定ながら0.4銭に縮小。そこへGMOクリック証券(通常スプレッド、固定)とDMM.com証券(期間限定)が負けじと追随した。一度は落ち着いたかに見えたスプレッド競争は再燃し、0.4銭の攻防という新たな局面に入ったといえるだろう。
(連載「FXトレンドフォーキャスト」より抜粋)
※マネーポスト2012年春号