国内

「握力が強い人、脳卒中になりにくい」厚労省研究班調査結果

「握力」と「脳卒中」の関連を示す研究データがこの度、発表された。

 これは九州大学の熊谷秋三教授を代表とする厚生労働科学研究班によるもの。福岡県久山町に住む40代以上の2527人(男性1064人、女性1463人)を対象にした、約20年間にわたる追跡調査の結果である。

 この調査では、男女別に握力が弱い順から人数が均等になるように、各4組にグループ分けし、年齢や飲酒状況などの要素を補正したうえで、死亡原因との関係を調べた。

 すると、握力が最も弱い組(男性35キロ未満、女性19キロ未満)に比べ、男女ともに握力が強い組ほど死亡リスクが下がることがわかったのである。最も握力の強い組(男性47キロ以上、女性28キロ以上)の死亡リスクは、最も弱い組より約4割も低かったというから、その差は明白だ。また、米FHS(フラミンガム・ハート・スタディ)の調査同様、握力が強い組では脳卒中になるリスクが低いことも明らかになったのである。

 ちなみに握力の目安だが、ペットボトルのキャップを開けるのが困難なときがある人は20キロ未満、未開封の瓶の栓を開けるのに難儀する人は30キロ前後と思われる。ただし、これはあくまでも目安。手の大きさや、指の力、缶や瓶の種類などで変わってくる場合もあるだろう。

 この研究では、握力が、脳卒中だけでなく、心臓病など循環器系の病気の発症リスクと関連していることも裏付けられている。調査によると循環器系の病による死亡リスクについては、握力の最も強い組は、最も弱い組の半分しかなかったという。

 つまり、握力の差は、長生きできるかどうかの差になっているというわけだ。この調査結果について熊谷教授はこう語る。

「握力の強さが健康に影響があるというのは、これまでにも同様の研究がいくつかありましたが、対象者は高齢者が多かった。今回は40代以上に対象を広げており、発症リスクを考えるうえでは非常に意味のあるデータです。また、久山町という場所は産業構造や人口構造などの環境が日本全国の平均とほぼ同じ形態を持っており、研究結果は久山町に限ったことではなく、一般化できるものなのです」

 この調査では握力と認知症リスクとの関連については対象にしていないが、医療ジャーナリストの田辺功氏は次のように分析する。

「脳血管性型の認知症と脳卒中には関連性がある。脳卒中のリスクが低いことがそのまま認知症リスクが低いことにはつながらないとしても、この研究も認知症リスクの目安になるのではないでしょうか」

 ただし、このデータで握力だけを鍛えれば良いと考えるのはやや早計だ。文部科学省の調査によると、一般男性の握力は30代後半から40代前半をピークに年々衰えていくが、これはあくまでも平均値。前出の熊谷教授もこのデータについて、

「握力が強い人は死亡リスクが低い、ということは分かっていますが、握力を鍛えれば死亡リスクが下がる、というデータではありません。また、握力が強いというのは日常の運動状況が背景にあります。ですので、握力だけ鍛えればいいというものではありません」

 と、指摘している。

※週刊ポスト2012年4月6日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

山口組分裂抗争が終結に向けて大きく動いた。写真は「山口組新報」最新号に掲載された司忍組長
「うっすら笑みを浮かべる司忍組長」山口組分裂抗争“終結宣言”の前に…六代目山口組が機関紙「創立110周年」をお祝いで大幅リニューアル「歴代組長をカラー写真に」「金ピカ装丁」の“狙い”
NEWSポストセブン
「衆参W(ダブル)選挙」後の政局を予測(石破茂・首相/時事通信フォト)
【政界再編シミュレーション】今夏衆参ダブル選挙なら「自公参院過半数割れ、衆院は190~200議席」 石破首相は退陣で、自民は「連立相手を選ぶための総裁選」へ
週刊ポスト
Tarou「中学校行かない宣言」に関する親の思いとは(本人Xより)
《小学生ゲーム実況YouTuberの「中学校通わない宣言」》両親が明かす“子育ての方針”「配信やゲームで得られる失敗経験が重要」稼いだお金は「個人会社で運営」
NEWSポストセブン
中居正広氏と報告書に記載のあったホテルの「間取り」
中居正広氏と「タレントU」が女性アナらと4人で過ごした“38万円スイートルーム”は「男女2人きりになりやすいチョイス」
NEWSポストセブン
『月曜から夜ふかし』不適切編集の余波も(マツコ・デラックス/時事通信フォト)
『月曜から夜ふかし』不適切編集の余波、バカリズム脚本ドラマ『ホットスポット』配信&DVDへの影響はあるのか 日本テレビは「様々なご意見を頂戴しています」と回答
週刊ポスト
大谷翔平が新型バットを握る日はあるのか(Getty Images)
「MLBを破壊する」新型“魚雷バット”で最も恩恵を受けるのは中距離バッター 大谷翔平は“超長尺バット”で独自路線を貫くかどうかの分かれ道
週刊ポスト
もし石破政権が「衆参W(ダブル)選挙」に打って出たら…(時事通信フォト)
永田町で囁かれる7月の「衆参ダブル選挙」 参院選詳細シミュレーションでは自公惨敗で参院過半数割れの可能性、国民民主大躍進で与野党逆転へ
週刊ポスト
約6年ぶりに開催された宮中晩餐会に参加された愛子さま(時事通信)
《ティアラ着用せず》愛子さま、初めての宮中晩餐会を海外一部メディアが「物足りない初舞台」と指摘した理由
NEWSポストセブン
「フォートナイト」世界大会出場を目指すYouTuber・Tarou(本人Xより)
小学生ゲーム実況YouTuberの「中学校通わない宣言」に批判の声も…筑駒→東大出身の父親が考える「息子の将来設計」
NEWSポストセブン
大谷翔平(時事通信)と妊娠中の真美子さん(大谷のInstagramより)
《妊娠中の真美子さんがスイートルーム室内で観戦》大谷翔平、特別な日に「奇跡のサヨナラHR」で感情爆発 妻のために用意していた「特別契約」の内容
NEWSポストセブン
沖縄・旭琉會の挨拶を受けた司忍組長
《雨に濡れた司忍組長》極秘外交に臨む六代目山口組 沖縄・旭琉會との会談で見せていた笑顔 分裂抗争は“風雲急を告げる”事態に
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 中居トラブル被害女性がフジに悲痛告白ほか
「週刊ポスト」本日発売! 中居トラブル被害女性がフジに悲痛告白ほか
NEWSポストセブン