中国では最近、国有企業と公務員への批判が一層高まっている。共産党は腐敗打破を掲げるが、それもどこ吹く風のようだ。権力や富を独占し、不正はやり放題の実態は一向に改まらない。このほど上海を訪れたジャーナリストの相馬勝氏が、現地の声を紹介しつつその実態に迫る。
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世界銀行と中国政府直属の調査研究機関「国務院発展研究センター」は今年2月27日、「2030年の中国」と題する報告書を発表した。同書は国有企業は富を独占しており、その役割を制限するといった改革をしないと大きな経済危機が起こると結論づけている。
同書によると、中国では各業種で最も発展している企業は例外なく国有企業で、その生産高は全体の90%近くを独占している。特に、エネルギー関連はその傾向が強く、石油や電気、石炭、鉱石などは、大きな国有企業の下に下請け企業が数百社ぶら下がっており、国有企業でなければ参入できない仕組みになっている。
国有企業の従業員は厳密には公務員ではないが、ほぼ公務員同様の特権を有している。従業員がただ同然の社宅を提供されているほか、ボーナスも年間2回から3回支給され、業績によっては月給の数十倍というのもざらだ。子供の教育費は、企業が自前で経営している学校に入るため、ほとんど要らない。また、ある一定のランク以上の役職者には公用車が与えられるなどなど特権だらけだ。
一方、公務員はというと、上海で聞いたところ、最も実入り良いのは税務署の職員とのこと。税務署員1人で、約1000件の企業を担当しており、企業側はお目こぼしにあずかろうと、「紅包(ホンバオ)」というお年玉を渡すという。これは一般常識化しており、あまり咎め立てるのも何かと不便なので、1社1000人民元(1人民元=約13円)程度ならば、賄賂にはならないということが暗黙の了解になっている。
ある税務署員は今年、紅包だけで40万元もらったという。その署員の月給は約15万元なので、紅包だけで月給の3カ月分弱を稼いだことになる。「本当はその3倍から4倍くらいはもらっていてもおかしくない」とある日系企業の関係者は語っている。
その証拠に、その署員の息子や娘はアメリカの大学に留学しており、自分も“億ション”や外車を持っているからだ。同じように国有企業の社員も民間企業からの付け届けがあるようで富が集中しているのが実態だ。
いま、中国では、大学の新卒者の3割から4割は就職できないという「超氷河期」。国家公務員や国有企業の従業員の応募倍率は数百倍になることもある。
上海在住の中国人コンサルタントは「確かに税務署の職員が大人気で、一人の募集に1500人が殺到する。本当に狭き門ですが、実際に採用されるのは『走後門』(ゾウホウメン)というコネでの採用がほとんどだ」と語る。このようなところでは、「口利きで腐敗が生じるのは日常茶飯事」と同氏は付け加えた。
上海の場合、政府が不動産の取り引きを制限していることもあって、金余りの公務員や企業家らにとっては、「どこに投資しようか。金の使い方がないと悩んでいる」と現地の証券マンは語る。
ある証券会社では、アメリカやオーストラリアなどへ投資する一口1億元の私募投資信託を販売したところ、「3月に入って数百口も売れている」と鼻息荒く語っていたが、金余りの公務員や国有企業社員が買っているという。