全く進展の気配を見せない復興事業。1年以上も経ったというのに、被災地では、インフラ工事すらほとんど着工されていない。その理由は、「税金」の分捕り合いが決着していないからだと囁かれてきた。その証拠を、本誌は掴んだ。
2月4日、岩手県大船渡、陸前高田両市のクリーニング店事業者が利用する復興支援仮設工場の設置披露式典が行なわれ、参加事業者らが喜びの声を上げた。
被災地初となるこの仮設工場では、自動クリーニング機や乾燥機などの機械一式を、全国クリーニング生活衛生同業組合連合会(以下、全ク連)から無償で借り受けている。
だがこの工場には、参加したクリーニング店には知る由もない、大きな問題があった。
こうした仮設工場には、クリーニングや美容・理容など生活衛生関係事業者に対する「再生支援事業」として、2011年度に2億3300万円、2012年度に1億3500万が復興予算として計上されている。厚生労働省の概算要求にはこうある。
〈なお、具体的な事業は、生衛組合・連合会に交付して実施するが、参加できる営業者は組合員に限るものではない〉
生衛組合・連合会(以下、生衛組合)とは、クリーニング・美容・理容など16業種にまたがる事業者組合の集合体で、全ク連はその傘下組織のうちクリーニング業者をまとめる団体である。
もちろん業界には他にも数多くの団体がある。だが厚労省はそのなかで、この生衛組合“だけ”に復興予算を拠出したのである。
補助金を受け取った生衛組合は、工場設備やクリーニングの機械を購入し、事業者に貸し出す。さらに特別課題という名目で、「3.11被災者支援 THE MOVIE」と題した移動映画上映や、「カラオケバス」で仮設住宅や避難所を訪問する事業まである。
いったいなぜ、生衛組合だけに予算が流れたのか。厚労省の健康局生活衛生課はこう説明する。
「生衛組合は生衛法に定められた法定団体であり、他の任意団体とは違い、震災以前から助成金が交付されていた。生衛組合に助成するスキームしかないため、復興予算も同様の枠組みで助成することにした。他の組合を排除しているつもりはない。組合員以外も事業には参加できるし、告知については生衛組合に『他の組合にも伝えておいて』といっておいた」
全ク連も「支部の担当者が、同業すべての事業者にヒアリングを行なったときに書類を配布しているはずだ」(広報担当)と口を揃える。ところが全ク連を上回る売上規模1位の全国クリーニング協議会の特別顧問・小川賢治氏の話は、これとは食い違っている。
「こんな予算があるとは最近まで知らなかった。クリーニング業界の大半は知らなかったはずだ。厚労省は全ク連にだけ情報を流し、他の任意団体には情報を流していなかったということ。我々のほうが事業規模が大きく、税金も多く払ってるのに、補助金は受けられないというのは不公平だ」
案の定、厚労省が生衛組合だけに補助金を流した背景には、大きなシロアリ利権がある。
生衛組合の事業者を指導する名目で作られた厚労省管轄の財団法人「全国生活衛生営業指導センター」という団体がある。厚労省、ならびに全国の生活衛生関係の公務員による典型的な「天下りセンター」である。
この予算に疑問を呈している村井宗明・衆議院議員が語る。
「普通は県や市町村を介して補助事業の情報を開示するのに、今回は厚労省が他の団体に知らせずに生衛組合を直接指定して補助金を出している。組合と一体である指導センターが天下り団体だから、意図的に便宜を図ったとしか思えない」
●レポート/福場ひとみ(ジャーナリスト)と本誌取材班
※週刊ポスト2012年4月13日号