被災地・岩手県で「岩手県警」の腕章をつけ活動する警察官。その中に、慣れ親しんだ勤務地を離れて復興に取り組む志願者がいる。現在、全国の警察から750名の警察官が岩手、宮城、福島の被災3県に出向して身を粉にしているのだ。
そのうち130名は岩手県警に出向し、宮古署に40名が配属された。宮古市に隣接する山田町に実家がある田島紳司巡査は、最大の200人を3県に送り出した警視庁からの出向組だ。警視庁では募集に対し、470名の応募があったという。出向となった200人のうち、約半数が被災地の出身だ。田島巡査は、宮古署で刑事課に所属し、管内の警戒や犯罪の初動捜査にあたる。
「津波で母方の祖父の自宅が流されました。震災後に帰郷し、見たこともない光景に言葉を失いました。警視庁の仕事にやりがいを感じており迷いましたが、被災地復興の手助けになり自分も成長できるだろうと決めました」
警視庁から宮古署には、田島巡査を含む3名が派遣された。話してみると全員同じ中学校の出身で、ひとつずつ学年の違う先輩・後輩の間柄とわかった。故郷復興への覚悟と行動が同窓生を運命的に結びつけたのだった。
被災地の出身ではないが、震災後の支援活動で被災地を訪れ、出向を決意した警察官も多い。青森県警から宮古署に出向した中村卓也巡査は震災後、7度に亘り被災地に派遣された。
「当時、地元の警察官が休みなく働いているのを間近で見て、自分も同じ仲間のために働きたいと思いました。青森は自力で復興できるので『余力があるところが手を貸さねば』と感じて志願しました」(中村巡査)
香川県警から出向した寺元剛巡査部長は18年目を迎えた中堅警察官だ。震災後、陸路で二日かけて被災地に入り遺体搬送などを手伝った。被害の甚大さに「自分は役に立てているのか」と自問する日々だったと振り返る。
「合計9回被災地に派遣されましたが、香川に戻るたび、現地に根を下ろさないと役に立てないと思いました。出向の募集を聞き、『現地で仕事することにこそ警察官の意義がある』と迷わず志願しました」
※SAPIO2012年4月4日号