株価や為替レートからは明るい兆しがみえなくとも、その大前提となる人々の心理面は着実に改善している――、そう分析するのは、内閣府の「景気ウォッチャー調査研究会」委員など主要な景気委員を歴任するエコノミスト・宅森昭吉氏だ。“景気予測の達人”が、身近なデータから隠れた景気サインを読み解く。
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長く低迷した日本の景気は、今、局面変化のときを迎えている。円高や欧州債務危機、消費増税など、経済環境は依然として厳しいが、身近な事象や数字から景気を読み解いてみると、明るい兆しが見えているのだ。
たとえば、2011年11月から、世帯当たりのモヤシ購入金額が大幅にダウンしている(総務省・家計調査)。価格が数十円と安いので給料日前などに出番が増えるモヤシの売り上げは、市中の景気を判断するシグナルのひとつだ。景気後退局面では売り上げが増え、逆に拡張局面では減る傾向にある。実際、過去のモヤシ購入金額の推移は、企業倒産・負債総額のグラフと連動している。
最近のもやしの動きは景気の改善を示しており、主要な経済指標もこれを裏付けている。6か月連続で「下げ止まり」を示し続けた景気動向指数は、2月発表の最新データでついに「(上方への)局面変化」に基調判断を上方修正しているのだ。
こうした景気の改善を示す身近なサインは年明けからも数多く点灯している。たとえば新年の箱根駅伝。「山の神」こと柏原竜二を擁する東洋大学が完全優勝を果たし、注目を集めたにもかかわらず視聴率は前年を下回った。これは景気改善のサインとみることができる。
景気が悪いと正月も自宅にこもってテレビを見る人が多くなるが、景気がいいと外出する人が増えるからだ。現実に過去箱根駅伝の視聴率の推移は、1月の景気動向指数(一致DI)とほぼ連動している。
一方、三が日における明治神宮の参拝者数は前年の319.5万人から4.5万人減少した。外出する人が増えているのに、神頼みする人が減っているのは、景気改善のサインではないか。
企業の広告費の代理変数ともいわれる大相撲の懸賞金も、2012年1月の初場所では943本と、800本を割った過去3場所に比べ大きく回復した。同じ東京での開催である2011年秋場所が785本だったことからも、まずまずの数字といえるだろう。
※マネーポスト2012年春号