卒業式、そして来る入学式での「君が代不起立問題」に大阪の教育界が揺れる中、橋下徹・大阪市長は次なる“爆弾”を投げ込んだ。卒業式シーズンが一段落した3月23日、橋下氏率いる大阪維新の会が公約に掲げた「府立高の学区撤廃条例」が成立した。これに教師たちは「君が代起立」以上の猛反発を見せている。
「君が代起立条例」を巡る橋下徹・大阪市長と教師たちのバトルは、間もなく迎える公立校の入学式が第2ラウンドとなる。
「あれだけ事前に話題になってしまったので、卒業式では起立反対派の教師であっても起立する者が多かった。しかし、入学式ではそうはならないかもしれません」(市立中学校教諭)
3月28日に「不起立派」を勇気づける出来事が起きた。生野照子・大阪府教育委員会委員長が、橋下氏に「抗議の辞任」をしたのである。生野氏は不起立問題を巡って橋下氏を「やり過ぎだ」と批判、これに対して橋下氏は「梯子を外すとは許されないマネジメント」と応酬した経緯がある。生野氏は辞任会見で、「政治が暴走する可能性を残してしまったことに責任を感じる」とも述べた。
府立高教諭が語る。
「生野さんの辞任の背景に君が代問題を巡る対立があったのは間違いないが、メーンの理由は、3月23日に成立した教育基本条例にある。特にその中でも、教委が反対していた府立高の学区撤廃が盛り込まれたことに抗議したのです」
大阪の学区制は戦後に始まり、1973年に9学区に編成、2007年の見直しを経て現在は4学区となっている。
府立高への進学を希望する生徒は、原則的に自宅が含まれる学区内の高校しか受験できない。だが条例成立により、生徒は希望する府立高を受験できるようになる。
橋下氏は学区撤廃を2008年の府知事選出馬の時から公約に掲げてきた。そして、知事時代には、「エリート校を作る」と宣言し、自らの母校・北野高など10府立高を進学指導特色校に定め、学区を撤廃した。
教師側はこれに猛烈に反対してきた。条例成立前の1月末、府市統合本部会議でも激論が交わされた。
堺屋太一・特別顧問が「学校選択の自由は非常に重要。先生もそれぞれの学校の特色を生かして情報発信すべき」と述べると、対する教師側は、「根本的に変えるとなると簡単なことではない」「十分に時間をかけるべきではないか」と反論。橋下氏は、「私学には学区がなくて、公立にだけなぜ学区が必要なのか」と怒りを爆発させた。
結局、維新の会が多数を占める府議会で教育条例は成立し、「学区撤廃」が決定。実施されるのは2014年度からとなる。
府西部にある府立高教諭はこう嘆く。
「学区制撤廃は格差社会を生む。生徒が進学校に集中するのは目に見えています。北野のようなトップ校に東大、京大を狙うエリートが集まり、偏差値がパッとしない学校はテレビドラマの『ごくせん』みたいな生徒ばっかりになる」
※週刊ポスト2012年4月13日号