1980年代後半、米証券会社ソロモン・ブラザーズに入社し、同社の高収益部門の一員として活躍し、巨額の報酬を得た後に退社した赤城盾氏。赤城氏は、社会保険制度が成立して以降、老後の面倒を親族に頼る必要がなくなったため、少子化を招く一因となっていると解説する。
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少子高齢化はベビーブームを経験した先進国に共通する現象であるが、我が国のペースは特別に速い。その理由は、1948年に制定された優生保護法によって刑法の堕胎罪が骨抜きにされて妊娠中絶が実質的に合法化され、1949年をピークに出生数が減少に転じたからである。
アメリカでは20年近く続いた大戦後のベビーブームが日本ではわずか数年で終わった。それは、深刻な食糧難を回避する人口抑制策の成功であり、戦後復興と高度経済成長の要因ともなった。
状況は異なるとはいえ、1980年代の中国は人口を抑制するために罰金を科す「一人っ子政策」を採ったのに、戦後の日本政府は中絶を容認するだけで足りた。こと家族関係に関する限り、実は、われわれ日本人は極めてドライで合理的なのである。
今さら儒教的な親孝行の精神に頼れるはずもなく、公的年金制度を維持しようとする限り、税収を充てることは不可避である(私自身は、公的年金は縮小廃止して自助を促し、生活困難な高齢者には保護施設を提供すればいいと考えるが、あまりにドラスティックで大方の賛同は得られまい)。
しかし、20年もデフレが続き、100年に一度の世界金融危機から日も浅く、しかも、原発が次々止まり貿易収支が急速に悪化しているこの時に、藪から棒の大増税に国民の理解を得るのは難しいのではなかろうか。
増税を急ぐ論者はギリシャやイタリアの例を引いて国債の暴落に警鐘を鳴らすが、本当にそうなれば、嫌でも増税で国論はまとまる。超低金利下のデフレの現状を放置して増税を急ぐのは、転ばぬ先の杖ならぬ、杖を放り出して転ぶの図ではあるまいか。
共通通貨ユーロに縛られて独自の金融政策を行なえなかったギリシャから真の教訓を得るのであれば、まず、徹底的な量的金融緩和によって円安誘導を図るのが先決であろう。
※マネーポスト2012年春号