自らの身を切ろうともせず、「権利」とばかりに電気料金値上げを一方的に通告してきた東京電力。4月1日から契約電力50キロワット以上の企業を対象に、平均17%に及ぶ一斉値上げを発表したが、その企ては猛反対によってあえなく頓挫した。
企業向け電気料金は1年契約で、契約期間中は旧料金を維持できることになっているが、東電が当初、顧客側にその仕組みを十分に説明していなかったことも反発を買った。
3月31日で契約満了となる顧客約5万件のうち、値上げで合意に至ったのは約3300件と1割にも満たない。
東電は苦肉の策として、「契約満了日が値上げを公表した今年1月17日~3月30日なら来年の満了日」「満了日が4月1日~来年1月16日なら同期間の満了日」まで、新料金への移行を延長することを発表して批判の沈静化に必死だ。
しかし、これで顧客側と東電の力関係が逆転したわけではない。他から電気を買おうにも、PPS(特定規模電気事業者)の供給力は限界にあり、新規に電力を調達するのは難しい状況にある。
東電が電力という企業活動の命綱を握っている構図に変わりはない。それゆえ一見低姿勢をとりつつも、「検針日翌日から50日間の支払い期限内に料金が支払われなければ電力供給を打ち切ることもある」と脅しも忘れない。
解せないのは、電気料金値上げで最も大きな打撃を受けるはずの大企業が、東電の値上げについて批判せずダンマリを決めこんでいることだ。経団連のトップである米倉弘昌・会長に至っては、「今の段階では(値上げは)やむをえない」と容認の姿勢まで見せてしまっている。
「値上げで利益がすべて吹っ飛ぶ」
「東電管轄以外の地域の同業他社と戦えない」
といった切実な悲鳴が聞こえてくるのは、中小企業からばかり。なぜか経団連に加盟するような大企業からは東電批判の声が上がってこないのである。
そこには秘密がある。1990年から1995年まで段階的に進んだ電力自由化によって、大口事業者向けは「自由化部門」とされ、電気料金は電力会社と顧客企業との相対契約となった。一方、電力使用料の少ない小規模な企業や一般家庭は「規制部門」とされ、一律の電気料金が課せられている。
問題は、東電と各企業との契約である。その内容はまったく公にされていないが、東電と“親密な関係”にある大手企業だけが優遇され、電気料金も格安になっているというのである。
資源エネルギー庁によれば、2010年度の電気料金の全国平均単価(キロワット時あたり)は、家庭向けが20.37円、法人向けが13.65円となっている。
しかし、どうやら個別事情は全く異なる。今回の料金値上げに反発し、山梨県内のスーパーマーケットやクリーニング店など25社と8消費者団体が、3月22日に「独占禁止法で禁じている優越的地位の濫用に当たる」として、公正取引委員会に申告した。その申告者に名を連ねる、県内スーパー9社でつくる『山梨流通研究会』の内藤学事務局長が指摘する。
「東電の電気料金体系は極めて不透明で、大企業ほど安くなっている。一部の大手はキロワット時あたり8円以下とも聞いている。だからこそ、経団連などに所属する大企業からは電気料金値上げに関する文句が一切出てこない」
1キロワット時あたり8円という額が事実なら、大手企業は一般家庭の30~40%程度の料金で電気を使用していることになる。
衆議院議員の河野太郎氏がいう。
「私が調査しているところで、一番安い額で某製造業の7円(1キロワット時あたり)。こうした契約料金が表に出てこないのは、料金を開示しない条件を契約書に盛り込んでいるからです。今回の値上げに関して東電が各契約事業者に送った『値上げのお願い』にも、『第三者に開示するな』と一番下に書いてあった。開示すれば契約違反になるという。これでは値上げが妥当かどうかも判断できない」
※週刊ポスト2012年4月13日号