経営破綻した国内唯一のDRAMメーカー・エルピーダメモリの坂本社長は、新聞やテレビ、ビジネス誌などで同社のV字回復を成し遂げた救世主ともてはやされた。だが、そこに大きな誤りがあると、大前研一氏は指摘する。以下は、大前氏の解説だ。
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国内唯一のDRAMメーカー・エルピーダメモリが、会社更生法の適用を申請して経営破綻した。その理由として同社の坂本幸雄社長は、日本の開発力の低下と歴史的な円高による競争力の喪失を挙げているが、そこに経営者としての根本的な誤りがある。
坂本社長は、新聞やテレビ、ビジネス誌などで同社のV字回復を成し遂げた救世主ともてはやされた。しかし実際は、2008年度の約1800億円の大赤字が、わずかに損益分岐点を上回ったというレベルだ。
2010年度の業績は売上高こそ約5000億円で最盛期の2006年度にようやく肩を並べたものの、純利益は21億円足らずで2006年度に遠く及ばず、ROA(総資産利益率)は0.23%、ROE(自己資本利益率)は0.76%にすぎない。坂本社長が管財人として続投するが、この人に託しても再生は無理だと思う。
なぜなら、DRAMがコモディティ(汎用品)化し、エルピーダがDRAM業界の「限界供給者」(同業者の中でかろうじて経営を続けている企業)だからである。つまり、DRAMは高度な集積回路ではあっても、すでに機能、品質、ブランド力などの差別化特性が失われ、価格や量を判断基準に売買が行なわれる鉄やセメントと同じような状態になっている。
どこの商品でも大差のないコモディティにおいては、限界供給者は景気が良くて需要が旺盛な時は黒字になるが、需要が低迷した時や競争が激化した時などは赤字になる。
DRAM市場の世界シェア(2011年7~9月期)は、1位が韓国のサムスン電子(45.1%)、2 位が同じく韓国のハイニックス半導体(21.6%)、3位がエルピーダ(12.2%)、4位がアメリカのマイクロン・テクノロジー(12.1%)の順になっている。
坂本社長は、エルピーダが世界3位といえども「コモディティ化したDRAM業界の限界供給者である」こと、いわば鉄やセメントで業界3位の供給者であること、の悲哀を理解していない。だから、マイクロンやDRAM業界5位の台湾・南亜科技などと提携交渉を始めたものの遅きに失し(マイクロンのスティーブ・アップルトン会長が飛行機の墜落事故で急死するという不運はあったが)、“突然死”に追い込まれてしまったのである。
※週刊ポスト2012年4月13日号