野田政権は、消費税を10%にアップする一方、社会保障と税の一体改革と称した「年金カット」に手を染めた。
政府の「公的年金制度の財政基盤・最低保障機能の強化のための国民年金法等改正案(以下、改正案)」では、年金を含む年収が850万円(所得550万円)以上の人の基礎年金を所得に応じて減らし、年収1300万円(同950万円)以上は半額カットするとしている。
厚労省は「高齢者世代内でも再分配、公平を図る」と主張するが、こうした高齢者分断の構図にも罠がある。
今回の改正案では、高所得者に対する年金カットの一方、「弱者救済」として2つの柱を打ち出した。
1つ目は「年金受給資格の短縮化」だが、政府は受給資格を加入歴25年から10年に短縮することで、65歳以上の無年金者約42万人の4割が年金をもらえるようになると説明している。
しかし、10年で受給資格を得ても、単身世帯でもらえる年金は月額1万6433円(国民年金の場合)。これでどうやって暮らしていけというのか。これでは生活保護よりはるかに少ない。“年金があるから”と生活保護を受けさせない策略である可能性もある。
2つ目の「低所得者に対する6000円増額」も、わずか月6000円の上乗せのために「世帯全員が住民税非課税で、本人の年金を含めた収入が年額77万円以下」という厳しい条件がつき、対象者はごくごく一部の“毛バリ政策”だ。しかも無年金者は対象外だ。
「年金博士」として知られる社会保険労務士の北村庄吾氏はこう指摘する。
「民主党が実現するといっていた最低保障年金(無年金者も含めて月額7万円の年金を保障)を先送りして、年金官僚の言いなりに場当たり的なことをしているだけ」
民主党がいう「社会保障と税の一体改革」とは、弱者救済にもならず、「増税」と「保険料アップ」と「年金カット」という、ただただ国民から金を奪う改悪を「一体」で行なう計画だったのだ。
最初は国民負担を小さく見せかけて制度を導入し、いったん決まればどんどん国民の負担を増やすという「小さく生んで大きく育てる」がシロアリ官僚の手口であり、この年金カットにもいずれそうなる毒が仕込まれている。すでに2008年の社会保障国民会議では、年金を含む年収が600万円(所得350万円)以上から基礎年金の支給を減額し、年収1000万円(所得700万円)以上は6万4000円の基礎年金を全額カットする案が出ていた。今回の改悪は「全額カット」に向けた第一歩なのだ。
※週刊ポスト2012年4月13日号