国家の基本は、国民と国土である。しかし、最近、新潟での広大な土地取得契約をはじめ、日本各地で中国による土地の買収が以前にもまして急激に進んでいる。ジャーナリストの櫻井よしこ氏は、こうした現状を「危機的状況」と警告する。巨大な“カネの力”に、どう対抗すべきか。
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中国による日本の国土への脅威は「尖閣」だけにとどまらず、列島のあちこちを侵食しています。
最近では、新潟市と名古屋市で、中国総領事館の用地取得の動きが進んでいます。なぜ新潟と名古屋なのか?
中国の動きには当然、理由があります。日本国内にある中国大使館・総領事館は7か所ですが、すでに東京・大阪・福岡・札幌・長崎の5か所は中国政府に土地を所有されてしまっています。残る2か所が、新潟と名古屋なのです。現在この2か所は、賃貸で総領事館が運営されています。
新潟市では今年3月、県庁そばの民有地約1万5000平方メートルが中国総領事館側と売買契約されていたことが明らかになりました。問題の土地では、すでに契約は済んでいますが、3月上旬時点では登記はなされていないと聞きます。日本における土地の所有権は他国に比べて非常に強く、いったん中国の手に渡れば、この広大な土地が治外法権と化してしまう可能性が高いのです。
そもそも、総領事館に1万5000平方メートルという広大な土地が必要とは考えられません。ここからは、単純に「現在は賃貸だが所有したい」というだけにはとどまらない中国の戦略的な意図が見えてきます。
新潟は、地政学的に非常に重要な位置にあります。
中国は2005年に北朝鮮の羅津港の第1埠頭を租借し、金正恩体制になってからは100万tの米の見返りに羅津港の第4、第5、第6埠頭の建設権を得て租借しました。羅津から進路を東に取れば津軽海峡で、すでに中国にとって太平洋への重要な出口になっています。
そして羅津から潮の流れに乗って南下すれば、佐渡島、さらにその先の新潟にぶつかります。中国が佐渡島と新潟に拠点を作ることができれば、日本海は中国の“内海”化する危険性があります。中国側から見れば、だからこそ拠点となる新潟市に広大な土地を求めていると言えます。まさに日本の安全保障に関わる問題なのです。
そもそも、このような事態を招いたのは、北京にいる丹羽宇一郎大使らの気概なき外交です。
昨年7月、日本政府は北京に新しい日本大使館を完成させましたが、中国政府は申請のなかった吹き抜けが建築されているとして使用を認めませんでした。そのうえで新潟と名古屋の土地の買い取りについて、日本政府に便宜をはかるよう要求してきたのです。
この筋違いの要求に、丹羽氏らはうろたえたのでしょう。そして本省に泣きついたのではないでしょうか。玄葉光一郎外相、野田首相の了承を経て、「中国側の要請に関連国際法に従って協力する」との口上書を中国側に提出しました。この前代未聞の屈辱的な対応の結果、その2日後には日本大使館の使用許可が下りました。
明らかにバーターによる妥協であり、丹羽氏と日本政府はまんまと中国の罠にはまったのです。丹羽氏は伊藤忠商事の元会長で、商社マンとしては有能だったのかもしれませんが、一体、氏には日本人としての矜持があるのでしょうか。こんな人物を大使に任命した民主党政権の責任は極めて重いと言えます。
※SAPIO2012年4月25日号