動物には自然に定められた寿命があるもの。とはいえ昨今の動物医療の進歩やペットフードの普及などでペットも長生きできる環境が整ってきた。それに伴い、飼い主が向き合わなければならなくなったのが、ペットの老いと“看取り”。ペットが末期の重い病気にかかったり、介護が必要になった際、つらい決断を迫られる飼い主が増えている。
兵藤動物病院(神奈川県横浜市)獣医師の兵藤哲夫さんは次のようにいう。
「まず、動物と人間は違うという認識を持ってほしい。人間には想像力がありますが、動物にはありません。動物が考えるのは、いま現在のことだけ。なぜケージの中に入れられて点滴をしなければならないのか、理解はできないのです。だから末期で余命いくばくもないのであれば、治療を打ち切り、自分の家で最期を迎えさせてあげたいと、ぼく個人は考えています」
一方、飼い主の心をサポートするグリーフ(悲嘆)ケアも重要と認識されはじめてきた。
「ペットがもうすぐいなくなってしまうかもという不安を抱えたまま治療に向き合っている飼い主に、症状を一方的に伝えると恐怖や孤独感が大きくなってしまいます。飼い主が迷いや苦悩を安心していえる環境を獣医師がつくっていくことが、いま必要とされていると考えています」
そう話すのは、動物医療グリーフケアアドバイザーでもある獣医師の阿部美奈子さん。
「治療を受けさせても、受けさせなくても、飼い主には“これでよかったのだろうか”という葛藤がつきまといます。だから、飼い主の選択が、ペットにとって最良だったと肯定してあげる人の存在が必要なのです。その役割をホームドクターや病院のスタッフに担ってほしい」(阿部さん)
※女性セブン2012年4月19日号