『メルマガNEWSポストセブン』では、ビートたけし、櫻井よしこ、森永卓郎、勝谷誠彦、吉田豪、山田美保子など、様々な分野の論客が『今週のオピニオン』と題して、毎号書き下ろしの時事批評を寄稿する。4月6日に配信された10号では、櫻井よしこ氏が登場。これから3回にわたって、「櫻井よしこの今週のオピニオン」を全文公開する。
* * *
4月3日、東京・平河町の憲政記念館で、私が理事長を務めるシンクタンク「国家基本問題研究所」が主催して、シンポジウム「アジアの自由と民主化のうねり~日本は何をなすべきか~」を開催した。
チベット亡命政府首相のロブサン・センゲ氏、世界ウイグル会議事務総長のドルクン・エイサ氏、モンゴル自由連盟党幹事長のオルホノド・ダイチン氏の三氏を迎えて、第1部でチベット問題を、第2部でウイグル、モンゴル問題を約4時間にわたって論じた。
この日は強風と強雨が日本列島を襲ったにも拘らず、会場には元首相の安倍晋三氏をはじめ、自民党の下村博文氏ら、民主党の笠浩史氏ら、たちあがれ日本代表の平沼赳夫氏ら、少なからぬ数の政治家の姿が目立った。このこと自体、画期的だ。
日本はこれまで中国の顔色を窺うばかりで、中国共産党政権がチベットやウイグル、モンゴルの民族問題は国内の少数民族の問題だと主張するのを額面どおりに受けとめ、当たらずさわらずの姿勢で関わりを避けてきた。世界各国政府が、ダライ・ラマ法王が自国を訪れるときには国賓級の礼を尽くして迎え、厳重な警備で守ってきたのとは対照的に、日本政府は一度も法王を官邸にお迎えしたことはない。アジアの大国日本としては、恥ずかしい限りの状況がこれまでずっと続いてきたのだ。
しかし、今回は違う。3日の国基研主催のシンポジウムに続いて、4日には初めて、日本の国会議員が超党派でセンゲ首相を招き、チベット問題について聞いた。その意味で今回のセンゲ首相を日本に招請したことは、自由と民主主義、人権と法治を重んずる日本国にとって記念すべき日になると思う。
ロブサン・センゲ首相は44歳の働き盛りである。法王が宗教指導者で、首相が政治の指導者であることを考えれば、中国の反発という意味では、首相と会うのは、法王とお会いするよりもっとハードルが高い。中国に気を使い、中国の主張に沿って政治を行おうとすれば、とても会うことなどできないのが、センゲ首相である。
事実、3月31日に首相が来日するや否や中国政府は「日本が訪問を放任していることに強烈な不満を表する」との談話を出した。談話はさらに「分裂勢力にいかなる支持も便宜も与えないよう」日本に要求し、「実際の行動で中日関係の大局を維持」するべきだと強調した。
にも拘らず、前述のように多くの政治家が3日のシンポジウムに参加し、4日の「聞く会」には約100名の超党派の議員が参加した。
センゲ首相の記念すべき来日の流れは国基研と自民・民主超党派の議員団がインドを訪れた昨年9月に遡る。インド訪問は、高まる中国の脅威の前に、日本は日米同盟だけでなく、アジア諸国及びインドとも交流を深めるべきだとの考えからだった。
国基研と下村博文、山谷えり子両議員はさらにチベット亡命政府のあるダラムサラに足をのばした。安倍氏はそのとき私にダライ・ラマ法王及びセンゲ首相へのメッセージを託し、私はそれをお二方に伝えた。メッセージは日本においでになることを歓迎し、その際には日本の国会議員としてきちんとお迎えしたいというものだった。
そこからさまざまなことが始まった。昨年11月には法王が来日なさり、約束どおり、自民・民主両党の議員ら20名近くがお会いした。今回は本人出席61名、代理出席30名の議員が首相をお迎えした。日本の官民合わせてのこの種の行動は、21世紀のこれからの世界の潮流を考えれば非常に大事なことだ。
(続く。次回は4月9日月曜7時に公開予定)