高い経済成長を続けて来た中国も足下では、インフレや不動産バブルといった不安材料を抱えており先行き不透明感が強い。3月に開かれた全国人代表大会では2012年の経済成長率を7.5%とすることが報告されるなど減速感も強まっている。中国株に精通するT.Sチャイナ・リサーチ代表の田代尚機氏が今後の中国経済の見通しを解説する。
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高成長を続けてきた中国経済の先行きを懸念する声が高まっている。
確かに、実質経済成長率は2011年第4四半期(10~12月)が8.9%と減速傾向にあるが、事前の市場予想の8.7%に比べると、わずかながら上ブレしており、さほど悪くないという見方もできるだろう。
その中身を見ていくと、中国経済を牽引してきた3つの成長エンジンのうち、「設備投資」も「輸出」も月を追うごとに鈍化しているが、「小売売上高(消費)」だけは堅調に推移し、中国経済を支えている格好だ。
実際、中国ではリーマン・ショック後に「家電下郷」「汽車下郷」と呼ばれる家電や自動車の購入支援策が打ち出されたが、その政策が終了してもなお消費が底堅いということは、素直に評価したい。
そして、最も気になる「物価」だが、CPI(消費者物価指数)の上昇率(前年同月比)が昨年11月以降、4%台で推移していることから、極端なインフレの心配は去ったと見ていいだろう。
これらの指標を見る限り、中国の現状はさほど悲観論に暮れる必要はないといえるのではないだろうか。
問題は、この先である。今後の中国経済の動向を予測するうえで最大のポイントとなるのが、やはり「輸出」だ。特に欧州向けがカギを握るが、中国政府はここにきて欧州の債務危機を支援する姿勢を鮮明にしている。
たとえば温家宝首相は2月3~4日、ダメージの大きい広東省の輸出関連企業などを訪問し、次のように発言している。
「欧州はわれわれにとって最大の輸出市場であると同時に、最大の技術導入先でもある。欧州市場の安定を手助けすることは、事実上われわれ自身を助けることにつながる」
このように欧州に手を差し伸べようとする背景には、米国との関係悪化も無縁ではない。
大統領選を控えた米国では、オバマ大統領や共和党候補者らが票集めのために中国批判を繰り返し、収まる気配がない。そうしたなか、中国は米国を煙たがる欧州との関係を強め、米国からの圧力をはねのけようとしているわけだ。
おそらく欧州危機は土壇場で中国をはじめとする新興国が支援することで最悪の事態は免れるに違いない。世界最大の外貨準備高をはじめ、それだけの資金力が中国にはある。そして、最大の輸出先が持ちこたえるのであれば、中国の輸出も持ち直すことが期待できるだろう。
※マネーポスト2012年新春号