中国「何でも欲しい病」の象徴の一つが、労働者の賃上げだ。かつて“安い労働力”の代名詞だった中国人労働者は、このままいけばアメリカ国内の労働者の賃金をも上回るという。もしそれが現実になったら、どうなるのか? 大前研一氏が「何でも欲しい病」の末期を予測する。
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いま中国は「所得倍増計画」を推進している。企業の従業員の賃金を毎年15%ずつ引き上げ、2011‐2015年の第12次5か年計画の期間で2倍にすることを目指しているのだ。
しかし、これは論理的にあり得ない。なぜなら、もし計画通りに上がっていったら、3年後には中国の賃金がアメリカのブルーカラーの賃金を上回ることになり、そこまで人件費が高騰すると企業が中国から逃げ出してしまうからだ。
私自身、中国で会社を経営しているので毎年15%の引き上げを強いられているが、賃上げは今年あたりで限界だ。これ以上高くなったら、よほどの付加価値を持つ企業でない限り、日本の地方に会社を移すか、他の国を見つけなければやっていけなくなる。
日本は自国内でも1980年代に円高や賃金上昇を経験しているが、生産性やイノベーション(革新)で乗り切り、その後は本格的な海外シフトで乗り越えてきた。中国では、そのような経営改善が伴わないまま、政府の方針として企業に下ろされてくる。
※SAPIO2012年4月25日号